~読んできた本の足跡~

~のんびりまったり日々読書~アニメや雑談も~

斜線堂有紀さんの「楽園とは探偵の不在なり」を読んでみた 感想

今回紹介するのは斜線堂有紀さんの「楽園とは探偵の不在なり」です。二人以上殺した者は天使によって地獄に落とされる世界を舞台に起きるはずのない連続殺人事件を描いた孤島×館の本格ミステリー。

楽園とは探偵の不在なり

五年前に突如起きた『天使降臨』は世界をすっかりと塗り替えてしまった。

 

その天使は人間が思い描く見た目とはかけ離れており、酷い猫背で至る所で空を飛びまわっていた。天使とコミュニケーションを取ることは不可能。罪人を地獄に落とす時は活動的だが、生活している分には害はない。砂糖が好物のようでまけば公園などにいる鳩のように寄ってくる。

 

二人以上を殺した者は、天使によって即座に地獄に引き摺りこまれる。なぜ一人はよくて二人は駄目なのかなど疑問は数多く尽きなかったが、人間は理解し、順応するしかなかった。またこのルールは連続殺人とは相性が悪かった。当時連続殺人犯を追っていた探偵の青岸焦(あおぎしこがれ)は『天使降臨』以来犯行をやめた犯人にとうとう辿りつくことができなかった。凶行を止めたのは探偵ではなく、地獄の存在。ならば探偵の存在意義とは何なんだ。荒れに荒れまくった青岸だが、現実は非情なり。不条理な天使の存在が抑止力となったのはゆるぎない事実であった。

 

そんな感じで今では一人で細々と探偵業を営んでいる青岸だが、かつては4人の仲間たちの本気で『正義の味方』を目指し、希望にあふれていた時期もあった。しかし、新型爆弾兵器『フェンネル』を使用した自爆テロに巻き込まれて、一人残らず死んでしまった。青岸の目の前で大切な仲間たちが焼かれていった。助け出す際に負った火傷は奇跡的に何の後遺症もなく、きれいに治った。

こんな望まない神の祝福などいらない。

それより善人であった彼らは天国に行けたのか。

空っぽになった事務所で自問自答する日々が始まった。

 

そんな抜け殻のような毎日を送っていたある日、「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪の常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集う常世島を訪れる。そこで青岸を待ち受けていたのは、起きるはずのない連続殺人事件であった。かつて無慈悲な喪失を味わい絶望の中に取り残された青岸は、過去の記憶に縛られながらも探偵として調査を始める。だが、そんな彼をあざ笑うかのように第二、第三、、、と立て続けに事件は起きてしまう。犯人はなぜ、そしてどのような方法で地獄に落ちずに殺人を実行しているのか。

 

青岸は探偵としての再び這い上がって復活することはできるのか。

また、本当に知りたかった答えを見つけることはできるのか

 

感想/まとめ

面白かった。

二人以上を殺した者は、天使によって即座に地獄に引き摺りこまれるといった特殊設定とクローズドサークルの館で起きるはずのない連続殺人事件とくれば、面白くないはずがありません。

 

一般的なミステリー小説では、今回のようにクローズドサークル下での殺人事件は、人間関係が破綻し、疑心暗鬼に陥ってさらなる惨劇を生んでしまうことがある。しかし、天使によって制限がかけられたこの世界では連続殺人が無いことを知っているの。みんなして冷静を保っている妙な違和感がこの小説でしか味わえない醍醐味の一つである。

 

世紀末のような世界。二人殺せば地獄行きなら一人までなら殺していいのではとの風潮が蔓延するのも自然の流れだ。連続殺人の歯止めになる一方で多くの人間を道ずれにしようとする危険な思想(差別テロ等)に繋がってしまう。たとえ天使のような存在がいたとしてもこの世から犯罪が消えることはないことを示唆しているとしたら悲しい事ですね。

 

 

犯人はその人ではなければとずっと思いながら読んでいたので残念だ。それでも前向きにとらえるならば探偵青岸としての再出発の犯人がこの人でよかったとも言える。探偵は謎を解くだけではなく、犯人も救うことができたのだから。