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降田天さんの「女王はかえらない」を読んでみた ネタバレあり/感想

今回紹介するのは降田天さんの「女王はかえらない」です。小学生のスクールカーストミステリー。クラスの絶対的女王を脅かす転校生が現れてことで状況が一転。加熱する権力争いの行く末とは?第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品。

 女王はかえらない

この小説は、小学生のスクールカーストミステリーとして第一部 子どもたち 第二部 教師 第三部 真相の三部構成となっている。

 

第一部 子どもたち

針山小学校四年一組にはマキという女王が君臨していた。彼女の周囲にはいつも女子児童が集まり、ご機嫌を取ろうと群がっていた。ちょっとしたことで機嫌を損ねてしまったら、はみ出し者と見做される。それはクラス内での階級社会から脱落を意味しているからだ。

そんな階級社会から上手く逃れているのが主人公のぼく(あだ名がオッサン)だ。マキ女王から変わり者だというレッテルを貼られており、そのおかげで平穏な毎日を送れていた。幼なじみで学級委員のメグは、クラスの状態を何とかしようと奮起しているが、マキからきつい言葉の反撃に遭い、いつも負かされてしまう。放っておけない性格で弱くても関わってしまう。メグの動向を気にかけて、何かあったら助け船を出すのがぼくの仕事だった。

 

東京から美人の転校生・エリカやってきたことでマキ一強の時代が崩れ始める。田舎に都会の息吹を振りまくエリカのことが面白くないのはマキだ。数日が経過してもエリカが擦り寄ってくる気配もない。痺れを切らしてマキから声をかけたら、強烈な返しで撃沈してしまう。マキからハブられていた女子児童がエリカ側につくのは当然の流れだ。クラスの勢力図はマキグループとエリカグループに分断された。

 

クラスで飼い始めたオタマジャクシ(タマ)が、何者かが関与して水槽の中に入れられたタガメによって食い殺される事件が発生する。マキグループはエリカグループの誰かが犯人だと決めつけており、対立の溝は深まるばかりだ。さらにエリカが大切にしていたバレッタが盗まれてしまいさらなる混乱を招く。エリカはマキのことを問い詰めるが、私ではないと完全否定。だが、バレッタがオタマジャクシ(タマ)のお墓がある花壇から見つかった。土の中に埋められており、当番だったマキが盗んだ犯人だとクラスのみんなは思っていた。それまでとっちの味方でもなかった男子までも非難した。この件が決定的となり勢力が逆転。一組の新女王はエリカとなり、求心力を失ったマキはいじめのターゲットへと成り下がった。

 

エリカが呼びかけて一組全員で夏祭りへと出かけた。エリカの指示により、花火の時間まで自由行動することでまとまった。各々楽しんだ後、集合時間になり集まったみんなが目指す場所は、針山を登ったとこにある広場だ。そこでエリカは完璧なシュチュエーションで自信満々にクラスの人気者テツに告白をした。テツは、マキの好きな相手でもあった。

「ありがと。でも、おまえは意地悪だからきらいだ」

振られるなんてここにいる誰ひとり想像していなかった。いや、一人だけいたかもしれない。静寂と沈黙を切り裂いたのは、マキのけたたましい笑い声だった。

「あっさりふられちゃった。あっははは!」

今までの鬱憤を晴らすからのようにエリカをバカにするマキ。

するとタイミング良く背後で花火が鳴った。それが戦いの合図の役割を果たしてふたりは取っ組み合い喧嘩を始めた。ギャラリーの声援にも煽られて、激しさは増していく。だが、生々しい流血に恐怖を感じたクラスメイトはふたり止めようとした飛び出した。大勢で一点に殺到したせいで押される形になり、二人はロープを飛び越えて崖から転げ落ちてしまった。

エリカは枝が喉を貫いて死んでしまい、マキは生き残った。

「このクラス全員、死ぬまで許さない」

そう宣言して狂ったように笑い、異様な目でクラスメイトを見上げるのだった。

 

第二部 教師

教師の真琴は不眠症に悩まされていた。原因は真琴が担任しているクラスの児童・鈴木絵梨佳の失踪だ。夏祭りの夜に行方が分からなくなってから、時間が経つが一向に解決の兆しが見えていない。学校や保護者や生徒に挟まれて悩みは増え続けるばかり。優しい夫・雅史のサポートと睡眠薬でどうにか対処をしている。

 

学級委員に立候補した森園真希からクラスのことを心配して相談を受けた。クラスメイトの危うさを感じ取ったのだろう。彼女が特に心配しているのが雪野めぐみだ。あんなに明るかったのに性格が変わってしまった。絵梨佳と塾が一緒で仲が良かったから仕方がないと洩らしてもいた。子どもにもテリトリーがある。大人が介入するよりも、子ども同士の方がいいかもしれない。めぐみちゃんのことは任せてくださいと言う言葉をありがたく頂き、真希にも頼ることにした。

 

宿泊学習に出かけた四年生。引率の真琴に向けられた視線があった。勘違いなのか、それとも敵視なのか。対応に困っていると現れたのは真希だった。彼女の言葉で向けられていた視線の意味に気付き、先生らしく無事に解決することができた。

 

さらに、めぐみから絵梨佳の居場所を知っていると告げられた。すぐさま警察に通報して、発見無事救出することができた。彼女はSNSで知り合った大学生のところにいたのだ。事情を知っていて黙っていた自分を責めるめぐみと庇う真希。涙を流して後悔の念に駆られる二人に対して、真琴は先生の言葉で締めた。

 

第三部 真相

宿泊学習から二週間後に真琴の小学校時代の同窓会が開かれた。

そこですべての真相が明らかになった。

 

▼ネタバレ注意

第一部の主人公ぼく(あだ名がオッサン)と第二部の教師の真琴(大崎真琴)は同一人物で性別は女性。小学生時代は一人称はぼく。大崎の姓からオッサンとあだ名で呼ばれていた。大人になった今は、教師になって針山小学校の四年一組の担任をしている。あのときと同じようにクラスにマキ、エリカ、メグミがいることは因果を感じる。そいうことで第一部のエリカと第二部で失踪した鈴木絵梨佳は別人である。

ちなみに、第一部で学級委員をしていたメグと第二部で真琴の夫・雅史(大崎雅史)は同一人物で性別は男性。結婚前の姓は恵雅史。

二十年前にエリカが死んで、マキが生き残ったあの日。その後何があったのか。

それは、クラス全員でマキを殺したのだ。その後二人の死体を沼に沈めて処理した。全員の罪を平等にしようと、ぼくが先頭になって自分の持ち物を一緒に投げ入れた。これで秘密は共有された。秘密は永遠に守らなければいけない。ぼくが教師となった理由もこの場所を見張る為だった。

マキへのいじめが始まったあの事件。エリカのバレットを盗んで、埋めたのもぼくだった。ぼくはメグが好きだった。しかし、メグはマキが好きだった。あの日、揉み合いになったマキを助けるためにエリカを突き落としたのはメグだった。それを目撃していたぼく。マキさえ殺せばメグが手に入る。自分の恋のために先頭に立ち、クラスメイトを操って殺させた。

 

時系列と性別と名前の叙述トリック満載の小説でした!

 

 

感想/まとめ

面白かった。

イヤミスとは知っていましたが、その他の情報は遮断していましたので、まさか叙述トリックも登場で満足することができた一冊で下。個人的にはマキやエリカにも自業自得の面もあるのでそこまで嫌な読後感ではなかったですね。また、ある程度ミステリー慣れした読者であれば、トリックには気がつくことが出来たと思います。ポンコツな僕でも、ひらがなから漢字へ名前の描写が変化した時にあれっと違和感を感じましたから。

 

女王は帰らない。卵のまま孵らない。永遠に。タイトル回収も素晴らしいですね。真琴も雅史も夫婦でありながら、肉体関係は一度もない。子どもも作るつもりない。そのままに一生を終えるのも贖罪なのでしょう。

 

表紙の絵は、マキとエリカで合ってるのかな?