宮部みゆきさんの「希望荘」を読んでみた 感想
今回紹介するのは宮部みゆきさんの「希望荘」です。杉村三郎シリーズ第四弾。私立探偵として新たな人生を歩み出した杉村さんが活躍する短編集。
希望荘
東京に小さな探偵事務所を開いた。ここが新たな物語の拠点になる。
いろんな意味で別れを告げた生活を一新して私立探偵として生きることを選んだ杉村さん。北見さんの影響もあるだろうし、すぐに首を突っ込んでしまう性格、事件を呼びよせてしまう体質な彼にはぴったりかもしれませんね。
多くの別れを経験したが〈今多コンチェルン〉に勤めていたころお世話になっていた〈睡蓮〉のマスター。
前作ラストで一緒に着いていくよ~と冗談だと思って聞いたいたが、ホントに事務所の近所に物件を探して喫茶店を開店してしまったのには驚いた。
新天地での新たな生活で不安もある中で心強い味方ですね。
僕としても彼らの絡みは読んでいて心地の良いアクセントになってくれるので有難い。
さて、今回は4編「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」から構成される短編集になります。人が歩んだ過去にはそれぞれの歴史がある。全体的にテンションが落ちる暗めのお話しで構成されている印象にどこか現在の杉村さんと重なって映える。私立探偵になるための試練なのかなとも思ってしまう。
▼聖域
大変お世話になっている大家さんと近所に住む盛田さんから相談を受けた。盛田さんが住むアパートの真下の住人三雲さんというおばあさんが亡くなったと聞いていたが、先週車いすに乗って若い女性と楽しそう会話をしている所を目撃したという。お金に困っていたはずが、目撃した女性はお洒落で金銭的にも余裕のある感じだった。本人なのか、別人なのか、はたして。
そう繋がりましたか、、、悲しい過去がありの結末でしたね。
▼希望荘
老人ホームに入居していた男性が亡くなり、その息子さんからの依頼。
昔、人を殺したことがあると生前に告白。その真偽を調べるために杉村さんは呼ばれたのだ。
男性の過去が杉村の過去と同様に〈裏切られ夫〉〈追い出された婿〉と重なる部分があり、人事だと思えない。離婚から二年、寂しさには慣れたと言い切っているので安心しましたし、この後も出てくる娘さんとのやりとりが微笑ましいので大丈夫でしょ。
言葉の重みを知ることができる。経験したからこそ分かる怖さ、若者に伝えるとき何を思ったのか知りたいと感じた。
だだでは終わらない最後のシーン。針の詰まったお話しでした。
▼砂男
離婚して故郷に帰ることにした杉村さん。母親との関係は相変わらず折り合いが悪いが父親の病という理由が帰郷という迷いをどかしてくれた。
こうしてマスターが言う杉村第三期の人生がスタートした。
無職ではいけないと思っていた矢先、紹介された直売店で働くことになった。
取引先の一つである蕎麦屋さんのご主人が不倫して出て行ってしまう。杉村さんの体質は故郷でも関係なく事件に巻き込んでしまう。
探偵事務所を開く際にお世話になる蛎殻さんと知り合い、協力してこの件の調査に当たることになった。
ここから終わっているが、解決してはいない事件が始まる。
前作からの時系列はここですね。探偵事務所を開くきっかけが描かれています。
杉村さんを迎え入れた家族のやりとりもリアルである。姪と柴犬(ケンタロウ)が癒しですね~
▼二重身
東日本大震災が関わってくるお話し。
杉村さんの事務所も倒壊してしまい、事務所移転を余儀なくされた。
新しい事務所で最初の依頼人は女子高生。母親の恋人が震災の後行方が分からないので探して欲しいとのこと。
本来なら未成年の依頼は断るのだが、今回は相談に乗ることになり安否捜索を始めるが、震災の裏に隠された部分を知ることになる。
小説の中でのお話しに留まらず、現実世界でも起きていたかもしれませんね。
原発事故や情報に翻弄された当時の記憶が蘇ってきましたよ。
感想/まとめ
前作のラストがあれだったので、どんな展開が待っているのかいろんな意味で楽しみにしていましたが、やはりそのポジションに落ち着きましたね。
探偵職は彼の天職でしょう。周囲の人に恵まれていることが、なによりです。彼の人柄のおかげなのでしょうね。
お話しの重さの割には淡々と進むのが読みやすいし、魅力なのかな。
最近最新刊もでたらしいので是非読みたいですね。