~読んできた本の足跡~

~のんびりまったり日々読書~アニメや雑談も~

市川憂人さんの「揺籠のアディポクル」を読んでみた 感想

今回紹介するのは市川憂人さんの「揺籠のアディポクル」です。

揺籠のアディポクル

無菌病棟、通称《クレイドル》には尾藤健(びとうたける)と赤川湖乃葉(あかがわこのは)の二人が入院していた。彼らは《アディポクル》という特殊な病気に感染しており、この病棟での隔離生活を余儀なくされた。最大八名の患者が共同生活を送れる無菌病棟だが、現在の住人はタケルとコノハの二人だけ。面会には誰も訪れず、唯一の話相手は診察をする柳先生と若林看護師だけである。外気に触れることが許されず、無害な菌でも致命的な病気をもたらす。そうしたリスクを抱える彼らのために、《クレイドル》は厳重な管理によって制御されていた。

 

ある日のこと病院に巨大な嵐が直撃し、一般病棟の屋上に設置されていた貯水槽が飛ばされ、渡り廊下を直撃してしまう。一般病棟と無菌病棟をつなぐ唯一の出入り口が封鎖され、タケルとコノハは《クレイドル》に取り残されてしまった。孤立無援の状況だが、緊急時でも電力と食事は確保されており、今すぐどうこうという訳でないのが幸いである。二人にとって《クレイドル》に留まっていたほうが安全だという言葉を信じ、嵐が通り過ぎるのを待つしかなかった。

 

しかし、そんな状況下の中でコノハが殺害されてしまう。出入り口が塞がれ、誰も立ち入ることができないはずなのに、なぜ殺人は起きてしまったのか。一人ぼっちになってしまったタケルは犯人を突き止めるために孤独の戦いに挑むことになる。

 

一般病棟から《クレイドル》に入るにはIDカードと虹彩認証が必要となる。その二つを解除できるのは柳先生だけである。ダストシュートなども人が通り抜けることは不可能。窓は嵌め殺しで、空調ダクトはフィルターや格子で塞がれている。それに今は渡り廊下が貯水槽で潰されており、柳先生だろうと誰だろうと《クレイドル》に侵入することはできない。条件下はまさしくクローズド・サークルと呼べるものであったが、ある理由から若林看護師が犯人だと推理したタケルは、コノハの仇を討つために《クレイドル》を出る決意を固めた。

 

免疫力が低いタケルにとっては命がけの脱出劇の末に辿りついた一般病棟は目を疑うような光景が広がっていた。

 

感想/まとめ

面白かった。

 

最近登場人物が多い小説ばかり読んでいたので少人数で有難い。さらに中盤あたりにはみんな退場してしまい、ほとんどタケルの独壇場である。そのためにコノハのために凝縮された思いがガンガン伝わってくるため心が震えました。出会いは最悪だし、ぶつかったり、和解したりと忙しかった二人。お互い本音を隠しながらも、随分遠回りして、最後には一緒になれた。コノハの願いも叶ったことだし、ハッピーエンドと言えるかもしれませんね。

 

《アディポクル》は人を死蠟と化し、致死率が高い感染症である。このご時世他人事では済まされてない。現実感が重くのしかかって絶望感すらある。

 

彼らを守る為でなく、彼らから守るといった逆転の発想も魅力の一つでしたね。若林さんが女性だと勝手に勘違いして(すぐ男性だと判明するが)タケルのために動画まで用意する有能さ。めっちゃいい人なのに疑っていたのが申し訳ないレベルでした。

 

ミステリーとしても青春としても魅力が詰まった一冊でした。