岡嶋二人さんの「99%の誘拐」を読んでみた ネタバレあり/感想
今回紹介するのは岡嶋二人さんの「99%の誘拐」です。コンピュータを駆使した誘拐事件が発生。犯人に振り回される前代未聞の完全犯罪の幕が開ける!
99%の誘拐
▼第一章 慎吾誘拐事件
昭和四十三年、社長・生駒洋一郎が経営する半導体会社『イコマ電子工業』は窮地に陥っていた。会社設立からバックアップしてくれていた企業の不祥事でイコマ電子工業にもその影響が及んでいたからだ。そんな時に手を差し伸べてくれたのが大手カメラメーカーのリカード・カメラだった。これから拡大していく事業のためにイコマ電子の技術が必要としていたのだ。しかし、会社の規模を考えると合併というより吸収されることを意味していた。
生駒は今こそ独立するチャンスだと己を鼓舞し、実を削ってまで用意した五千万の小切手を社員全員の前に置いた。そして、すべてをかけるので一緒についてきてほしいと訴えます。デモンストレーションは功を奏して社員全員一致で社長の手を取るのであった。
そんな五千万円をもとにして再起を図ろうとしますが、生駒の息子・慎吾が誘拐されてしまう。身代金は五千万円。奇しくも犯人の要求額が用意した全財産と一致することで訝しく思い、私の内情を知っている者が犯人なのかと嫌な考えが浮かんでしまう。さらに五千万円を失うことがあればイコマの終わりを意味する。生駒にとってあまりにも大きな意味を持ったお金だったが、息子の命には代えられるものではないと、要求通りに身代金を支払った。その結果、無事に慎吾は解放されて我が子を抱きしめることはできたが、事業面では合併は避けられず、リカードの一部となってイコマの名は消えた。
ちなみに事件の方も、犯人逮捕に至ることはなかった。
その後、生駒はリカードの半導体機器開発事業部長として働いてきたが、末期の胃がんを患い、四十七歳の短い生涯を閉じた。病床で綴った手記には誘拐事件の心境が遺されていた。この手記は妻・千賀子によって保管されており、慎吾は手記の存在を知らずに成長していった。それを慎吾が読むことになったのは、ある事故(第二章参考)が起きたからだ。
それが第三章で描かれる慎吾の誘拐事件に酷似した新たな誘拐事件につながっていく。またイコマ電子工業時代から生駒の部下で身代金運びに犯人が指定した間宮と鷲尾は慎吾を可愛がってくれて事件後も交流があった。
第二章
元リカード社員の長沼栄三が瀬戸内海の海底で溺死した。単なる事故ではなく、金の延べ棒を抱えて死んでいたことが判明し、様々な憶測を呼んだ。(金の延べ棒というのが慎吾の誘拐事件の身代金であり、奪われた時と全く同じ状態で発見されたから)
そのほとんどが強引な憶測だったが、定年退職後にこの地に移り住み、ボートを海に出しては金塊を探していたことは事実のようだった。彼が潜ったポイントが海図に残されており、すでに何十ヶ所にも及んでいた。どうして海底の金塊の存在を知っていたのかは、明らかにされることはなかった。
第三章
リカード社に入社した生駒慎吾は、コンピュータ設計技師としてカナダへ出向くなど優秀な研究者に成長していた。その一方である計画の準備を着々と進めていきます。かつての自身が被害者となった誘拐事件を連想させる方法で、またコンピュータを使用したハイテク誘拐を計画していたのだ。
ターゲットはリカード社長の孫。身代金の受け渡し役として、自分を指定して飛び入り参加します。犯人と受け渡し、一人二役をこなす前代未聞の誘拐事件。自作自演で復讐に燃える慎吾は、特等席で進行を見守ります。誰も彼の計画に気付きもしないまま迎えたクライマックス。内心微笑む彼の前に現れた慎吾誘拐犯人。
対峙した犯人は何を語るのか?
こうして二つの誘拐事件の幕は閉じた。
感想/まとめ
面白かった。エンタメ、ドラマで溢れる誘拐小説。
この構成によりどうしても犯人側の慎吾を応援してしまう。倒叙形式で、コンピュータを駆使して独り戦いを挑んだ誘拐事件。父親の仇を討つというのは違うかもしれませんが、これで慎吾も一区切りつくことができたのではないでしょうか。
「クラインの壺」もそうでしたが、時代を先取りした感がたまらなく興奮する。時代が追いつき追い越した、現代の技術なら可能となったシステムも多く存在する。古きを良きに変換できるこの作品はこの先も語り続けられていくことでしょうね。
それにしても、これが約三十年前の書かれた作品なんで信じられませんよ。