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降田天さんの「すみれ屋敷の罪人」を読んでみた 感想

今回紹介するのは降田天さんの「すみれ屋敷の罪人」です。旧邸から白骨死体が発見され、当時の関係者の証言や回想を元に事件を復元していく。艶やかな三姉妹に起きた悲劇とは。戦前から戦後にかけて埋もれていた真実が明らかになる!

 すみれ屋敷の罪人

物語は、戦前から戦後にかけての紫峰家を中心に描かれた事件パートと旧紫峰邸の敷地内から白骨死体が発見されて県警の西ノ森が紫峰家に関わりのある当時の関係者を当たって捜査する現代パートが交互に語られる構成となっている。

すみれの花が一面に咲き誇っていたお屋敷で父親と長女・葵、次女・桜、三女・茜と使用人たちが住んでいた。三姉妹それぞれ違ったの才を発揮して、葵は絵画、茜はピアノ、桜は二人に比べて抜きん出たものはなかったが、彼女にしかない素晴らしさを見抜いている人は確かにいた。

紫峰家は明治に入ってから製薬会社を興して成功した。名族の仲間入りを果たしたから建てたお屋敷は洋風で立派なものだった。しかし、現在は住む者がいなくなり放置されていたのを自治体が購入して設備のために重機を入れたところ白骨死体を発見したのだ。白骨死体の身許を特定すべく、県警の西ノ森が関係者から話を聞いてまわる予定だが、なにせ数十年前のことなので生存の確認が取れたのは当時使用人をしていた三人だけだった。

それぞれの使用人が語る紫峰家に対する印象に少しズレがあること、そして嘘が交じっていた。後ろめたいことがあるのか、何かを隠しているのか。使用人たちが一体感となって隠そうとした秘密とは何か。貴重な当時の証言を頼りに西ノ森は事件を復元化していく。

そして、物語の鍵の握る人物・唐沢ヒナ。婚約披露パーティの日に葵が連れてきた少女。芸者の見習いをしていたが、酔っ払ったお客にやられたと語る、頬から唇の端にかけて刃物で切り裂いた傷が痛々しかった。父親の反対を押し切って葵はヒナを世話人として仕えることにした。ヒナは有能であり、与えられた仕事をそつなくこなす器用さに誰もが認めて受け入れられた。そんな彼女の内にはある秘められた覚悟があった。

 

第一部で使用人の証言をまとめて仮説を立てた西ノ森。

そして、第二部の告白である人が生存していたことが判明する。語られた衝撃の真実。使用人たちが身を挺してまで事件そのものを隠そうとしていた訳は、主である旦那様のためだった。自分のためではなく、誰かのために想うことは強固な絆となっていた。

 

すみれ屋敷の罪人。美しさや切なさに毒もあるスミレをそのもので、タイトルに全てを込めた一冊をどうぞ。

 

感想/まとめ

面白かった。

悲しくて哀れなすみれ屋敷。罪人となった人たちの暮らしを支えていた余韻がいつまでも感じられた。この時代背景だからこそ完成できたミステリー。ノスタルジックな雰囲気がまた心地よい。

 

確かに悪人はいなかっただろう。それでも罪人はいた。白骨死体の方々の弔いを忘れずにしてほしい。そして、過去の人間や生きている人間のためにも秘密も一緒に弔って長年続いた幕を閉じてほしいですね。