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米澤穂信さんの「Iの悲劇」を読んでみた ネタバレあり/感想

今回紹介するのは米澤穂信さんの「Iの悲劇」です。無人となり荒れ果てた集落に新たな移住者を募り、再生させるプロジェクトが発足された。希望した移住者をサポートする、わずか三名の「甦り課」は、次々と発生する謎や問題解決に追われて今日も忙しい。

 Iの悲劇

▼第一章 軽い雨

住民が去り無人となった蓑石に新たな移住者を募り、再生させようとするプロジェクトが発足された。移住者の新生活全般をサポートするのが出世を望む公務員らしさ全開の万願寺邦和。新人で物怖じしない観山遊香。ヤル気が少々、定時には帰宅するのがモットーの西野秀嗣と、わずか三名の「甦り課」になる。そして招致される十二世帯の内、二世帯が先行して蓑石で生活することになった。

 

久野家と阿久津家

二家族が転居してきて数日が経過して様子を窺いに観山を連れて蓑石へ向かった。そこでラジコンヘリを飛ばしていた久野を見かけた。ラジコンの全長は一メートルもあり本格的である。余計なことを言う観山を制して何か不便なことやお手伝いすることはありませんかと訪ねると案内されたのが納屋だった。そこには数々の農業用機械が置いてあった。自給自足で米作りに挑戦したいと語る久野のために、所有者に確認する仕事が増えた。

さてここまで順調にきていたプロジェクトにトラブルが発生する。久野が間に入って仲裁してほしいと頼ってきたのだ。その理由を聞いてみると、阿久津家が夕方になると大音量で音楽を流してバーベキューを始めて迷惑しているとのことだ。万願寺は観山と何故かヤル気を出した西野課長と共に阿久津家へと向かった。そこでバーベキューできる環境が素晴らしいと引っ越してきて良かったと嬉しそうに語る阿久津家を見てそうでしょうと納得顔をした西野は苦情に関して一言も語らず帰ってしまった。

 

問題は先送りになってしまったが、数日後に久野家からお食事のお誘いを受けた。公務員としてモラルがあり断るつもりでいたが、何故か西野は行ってきなさいと背中を押す。気が重かったが奥さんの手料理と蕎麦をごちそうになった。

食後に奥さんの趣味であるヴァイオリンを聴いて小休憩。ゆっくりした時間を過ごしていると観山が火事に気がついた。方向からして阿久津家だ。急いで飛び出して現場へと向かった。二階のカーテンを焼いただけで、自然に火は消えた。火の不始末が原因だとわかりとりあえず大惨事にならなくてほっとしていたが、阿久津家は夜逃げ同然に蓑石を去って行った。

 

そして、転居一ヶ月後の面接日。西野が久野家に火事の真相を語りだした。

その結果、久野家も蓑石を去って行った。

ふたたび蓑石には誰もいなくなった。

 

▼第二章 浅い池

牧野家

予定されていた残り10世帯の移住者の転居が全て完了し、蓑石の再生を目指すIターン支援推進プロジェクトは一つの節目を迎えた。

そんな祝いも束の間さっそく「甦り課」に蓑石を盛り上げると力説した移住者の一人、牧野から電話が掛かってきた。彼は豊かな水を生かして鯉を育てるアイデアを考えており、さっそく養鯉を始めたがいきなり鯉が盗まれたという話だった。

水田に鯉を放して周囲をネットで完璧に囲った。さらに鯉が逃げないよう水の底まできっちりとネットを張って逃げ道はなくした。出入り口にもしっかりと鍵をつけて対策は万全だった。何度も確認してネットも破れていないという。

出張中の万願寺は帰り次第なるべく早く伺いますと約束して切り上げた。翌日になり朝早く牧野から電話が掛かってきて鯉が全滅してしまったと連絡が入った。

戻ってきた万願寺は、観山を連れて牧野の家に向かった。養鯉場を見たら一発で二人には原因が分かった。ネットは四方を囲っているが、上が開いていたのだ。これではまるで餌場だ。泥棒対策ばかりで、自然対策ができていなかったのが彼の失敗だった。

その後牧野は消え入りそうな声で退去手続きを行い、蓑石を去って行った。

 

▼第三章 重い本

久保寺家 立石家

自らも本を出している歴史研究家の久保寺。この家は戦争中にいち早く避難の準備を進めていたせいでつまはじきにされていた人物が住んでいた。そのため最初に無人になったのもこの家で老朽化が進んでいた。雨漏りや壁の反り返り、床の沈み込み、水周りの異臭など気になる点を挙げればきりがない。それでも同じ移住者の立石家の息子・速人からおじちゃんと懐かれるようなっていた。嬉しそうに絵本を薦めていますと語る彼を見て、良い傾向だと万願寺は頷いた。

ある日速人の母親から息子が帰ってこないと「甦り課」に連絡が入った。久保寺の家に遊びに行くと言って出て行ったきりだと言う。警察への通報は一旦保留してまずは万願寺と観山が探すことになった。

久保寺家は留守であった。すぐに電話をかけてみると仕事の打ち合わせで名古屋に行っていた。閉じまりはしていたが、子供なら風化した隙間から入ってしまう可能性もあった。近所に住む住人に速人の姿を見ていない。やはり、久保寺家の周囲にいる。

万願寺は、戦争中と避難のキーワードから防空壕の存在に気がついた。速人は探検しているうちに防空壕の入り口を見つけて迷い込んでしまったと考えたのだ。崖の法面に防空壕の入口を見つけて中を捜索すると本の下敷きになって横たわっている速人を発見した。

命に別状はなかったが、病院に運ばれるまで数時間もかかるここでは恐ろしくて子供を育てられないと切り捨てて立石家は蓑石を去って行った。

責任を感じて久保寺もひっそりと蓑石を去って行った。

 

▼黒い網

滝山家 河崎家 上谷家

「甦り課」の通常業務に家庭訪問が含まれている。そして今回訪問する河崎家の由美子夫人は何かと苦情を寄せてくるやっかいな人だった。近所に住むアマチュア無線が趣味の上谷はアンテナから人体に影響が出る電波が出ているから撤去してくれと抗議され、静養中の滝山は旦那さんがいない時に限って夕食に誘われて困って参っていると、家庭訪問で当面の問題が露わになった。他の住人から向けられた視線を張本人に丁寧に何度説明しても話が元に戻って先に進まなかった

さて、移住者の長塚から秋祭りの提案がなされ開催されることになった。万願寺と観山も招かれていて、見渡すと移住者のほぼ全員が参加していた。

広場に据えられたテーブルに数人が囲む形で散らばり、河崎夫妻、上谷、滝山のグループに万願寺と観山はお邪魔した。七輪の上でソーセージに玉ねぎやピーマンやキャベツといった野菜と上谷が採ったキノコがずらりと並んでいた。

各々楽しい時間を過ごしていた秋祭りだったが、由美子の様子がおかしくなった。頭とおなかが痛いと調子を崩してしまったのだ。止めてと制止する本人を無視して救急車を呼んで病院に運ばせた。治療を受けて回復し後遺症もないとのこと。だが、原因は毒キノコを食べたことだと判明し、いつの間にか消えた上谷は夜逃げ同然に蓑石を去って行った。

彼の犯行だと一瞬疑った万願寺と観山だが、由美子は人から渡されたものは食べない主義だったことを思い出した。さらに他のテーブルはバーベキューの焼き網から直接食べ物を取っていたのに対し、いったん大皿に移してそれぞれの受け皿に取っていたこのグループ。それは何を意味しているのか?

数日後、西野が犯人がどのようにして毒キノコを食べさせたのかと真相を語りだした。

その結果、河崎家、上谷は蓑石を去って行った。

 

▼第五章 深い沼

万願寺は、トラブル続きの蓑石の現状を市長に説明していた。責任追及の覚悟をしていたが拍子抜けするほどあっけなく終わった。これから本格的な冬を迎え、雪に見舞われる蓑石は除雪が必要となる。だが、予算がなく暖冬を祈ることになりそうだ。

ここで西野が切れ者だという情報を得た。確かにボヤ騒ぎや毒キノコの件を収めたのは最終的に西野だったが、いつものヤル気のない彼を見ているとほんとかどうか疑わしい。

 

▼第六章 白い仏

長塚家 若田家

若田夫婦が借りた家から円空仏が見つかった。ところがそれを誰にも見せようとしない。その対応に個人で独占してはいかん!円空仏はこの市全体の宝であり、見たい者には見せるように、借りたいという者がいれば借りられるように説得して欲しいと長塚からの「甦り課」への強い要望が入った。

さっそく万願寺と観山は若田夫妻と面会することにした。そこで円空仏を公開してほしいと頼んでみたが断られてしまった。妻の公子は、夫の一郎の身内に悪いことが続いて参っていた時期に占ってもらった結果、都会から引っ越した方があなたのためですと言葉を信じて蓑石にやってきた。そこで円空仏と運命的な出会いをしたものだから、この仏を守ることが自分の役目だと信じ切っているのでそっとしてほしいとの願いだった。

一週間後、一郎から電話があって、円空仏をもともと安置していた場所に戻して祀りたいのだが、元の場所が分からないので困っている。地権者の日記が残されていたからこれを読めば何か手がかりがつかめるかも知れないと思ったが、量が多くて人手が足りない。そこで西野の命で万願寺と観山が休日出勤してお手伝いすることになった。

黙々と作業を進める中、離れで日記を読んでいた観山が住む近所で火事騒ぎがあり、一旦退出することになった。寒さを甘くて見ていた万願寺は、暖がある離れに写って作業を開始した。

一時間半が経過してそろそろ休憩を取ろうと立ち上がりドアノブを掴んだが、何故かドアが開かなかった。外から駆け付けた若田夫妻も絶え間なくドアノブを回し続けるが一向に開く気配がない。ぼんやりと思考が薄れる中、戻ってきた観山に急かされて窓を開けるとなにかが出て行った気配を感じた。そして次の瞬間にはドアが開いて一郎が入ってきた。顔を真っ青にしながら確認した厨子に保管された円空仏が偽物だと見抜き、鬼の形相で長塚家に向かった。そして、床の間に本物の円空仏が飾ってあった。

この件が原因で若田家も長塚も蓑石を去って行った。

 

▼終章 Iの喜劇

移住者たちがみんな蓑石を出ていき、誰もいなくなってしまった。

西野課長と観山と久しぶりに蓑石を訪ねていた万願寺は、見えない力を操って移住者を去らせていた者たちの存在について静かに語りだした。

 

 

感想/まとめ

まずは怒りがきましたね。万願寺さんが不憫でならない。出世コースには間違いなく乗るだろうし、異動する望みは叶うことになるでしょう。なんだかんだ言いながらも移住者のために頑張ってきた三年間が無駄になったといっても過言ではない。呪いや霊、怪異といったものも恐ろしいが、人の感情も負けず劣らず恐ろしい。やるせない気分が晴れず万願寺さん立場寄りの感想どんどん溢れてくる。

どこに吐き出していいのかわからないこの感情は一生忘れないと思いますね。ほんとに悲劇であり喜劇の物語でした。そして、誰もいなくなってしまった。このラスト一文がとてつもなく重かった。

二度読みは、しないかな、、、

 

▼第六章 白い仏のトリック、、、下もどうぞ!

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