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西澤保彦さんの「収穫祭 下」を読んでみた ネタバレ少々/感想

今回紹介するのは西澤保彦さんの「収穫祭 下」です。首尾木村で起きた大量猟奇殺人事件の生存者・伊吹省路(ブキ)、小久保繭子(マユちゃん)、空知貫太(カンチ)の運命が再び交差する時、事件の全貌が明らかになる!

 収穫祭 下

▼第三部 1995年 8月~12月

舞台は1995年。高校で英語を教えている伊吹省路(ブキ)視点で物語は進む。事件後、村での記憶を失った省路は、高校、大学、大学院へとそれぞれ進学したのだが、大学院を中退してからは特にこれと言った目標もなく、ぶらぶらと堕落した生活を送っていた。その状況を知った高校時代の同級生から緊急に臨時講師が必要となり、困っている。もし可能なら引き受けてくれないかと頼みこまれた。省路は教員免許をもっておらず無理だと断ったが、相手は諦めない。めんどくさくなった省路はどうせ無理だろうと高を括り、その場は引き受けてしまった。その選択が失敗で翌日には校長の了解をとったから履歴書を送ってくれと予想に反した連絡が入る。後に引けなくなった省路はしぶしぶ臨時講師を引き受けることにした。

 

しかしいざ履歴書に作成に着手したのはいいが、学歴の欄で手が止まり先に進まない。自身が卒業した小学校と中学校の名前が出てこないのだ。それどころか中学生以前の記憶が失われていることや実母の名前すら憶えてないことに唖然とした。そんな不安ばかりが募る中で首尾木村での省路のことを知る男が接触してきた。年配の相手は多胡昭夫(たごあきお)と名乗り、首尾木村で起きた事件のことや省路の母親のことを語った。そんな様子を窺っていたが、どうやら嘘ではなく本当のようだ。しかし、何か目的があって接触してきたので明確で、案の定いくらか金を工面して欲しいと頼み込んできた。頼む相手を間違っていると聞き流すが、いいからこれを見てくれと封筒から男女が絡み合っている写真を取り出した。どうやらそこに写っているのは若い頃の実母であり、これが世に出回ると困るだろと遠回しに脅してきた。いまさら省路が困ることもないが、筋を通すつもりで妥協案を持ちかけ月々何枚かを買い取る方向で交渉がまとまった。その後、家に帰った省路がテレビから流れたCMのあるシーンを見た瞬間、脳内記憶が爆発した。

 

これまで人生で性的に興奮することが一度もなかった省路が、狂った猿のように自慰行為に及んだ。この性欲を満たしてくれるのは母親のポルノ写真、、、いや、いまや鮮明に甦った記憶に残る繭子(マユちゃん)だけだ。彼女の存在を手に入れる為ならどんな悪事にも手を染める覚悟でいた。しかし今の省路は多胡から買い取った母親の下着を身につけて自慰行為をする快感に翻弄され、性欲の沼に溺れている。このままでは破滅してしまうと危機感はますばかりだ。唯一の解決策は繭子の存在だが、彼女を探す方法も手がかりも現状では全くない。

 

省路が臨時講師を引き受けている学校の同僚が殺される事件が発生する。鎌でのどをかき切られた状態で発見され、現場には凶器の鎌とポリタンクが残されていた。13年前に起きた首尾木村事件を類似する点が多くみられたことで、第一発見者の米田美郷は同一人物による犯行なのではと推理した。実は彼女も13年前の事件に接点があり、省路とカンチが助けを求めた相手であった。さらにここ数年の間に手口が似た事件が発生していたことも調査済みで信憑性も高い。記憶を取り戻した省路はどこまで彼女に明かしていいか逡巡していた。

 

また彼女から繭子が国際結婚をして消息不明になっていることを教えられた。喉から手が出るほど欲しい情報だったが、入手困難な現実に絶望する。しかし、繭子ら(涌井融、石動健作)が失踪した日に川嶋浩一郎もまた失踪していたことが判明し、失踪前の繭子らの足取りを追うことになった。

 

そして、カンチとの再会。首尾木村で起きた大量猟奇殺人事件の真犯人の正体。記憶を取り戻し繭子を手に入れるために欲望が暴走した省路が実行した悪魔のような計画。全てが明らかになるまであと少しだ!

 

▼第四部 2007年 8月17日

舞台はふたたび首尾木村。あの事件から25年が経過した2007年8月17日。奇しくもこの日も台風が接近しており悪天候だ。家庭を築いた鷲尾嘉孝視点で物語は進んでいくが、繭子が満を持して再登場する。

 

▼第五部 1976年 5月

省路の母・香代子の狙いと収穫祭というタイトルの意味が明かされる!

 

感想/まとめ

上下巻の大作で長かったがとても面白かった。

下巻の第三部では伊吹省路(ブキ)視点で物語は進んでいきます。首尾木村事件後は記憶と性欲を失っていた。その二つがあることをきっかけで解放し、大暴走する。欲望のためにとったあの手段は正直ドン引きした。

そして、いろんな意味で事件の中心にいた繭子。色々突っ込みたいことはあるが、彼女で始まり、彼女で終わったことで締めたい。ただ、ブキ&カンチとの決着だけが気になる。

 

25年にも渡る年月で脇役っぽい登場人物が再登場するシーンは、これあの人か!と懐かしさと嬉しさのポイントが光る。

 

自分がまいた蒔いた種が芽好き、育つ。収穫に向けて待っていなさいと語る妖艶さに妙な興奮を覚えた。あれ、僕も変態だったのか!

 

芽が出て膨らんで、、、からの連想でお寺の和尚さんの歌を思い出した。懐かしい~