今邑彩さんの「卍の殺人」を読んでみた ネタバレ少々/感想
今回紹介するのは今邑彩さんの「卍の殺人」です。「卍」の形をした異形の館で起きる殺人事件。謎に満ちた館が起こす惨劇は、思いがけない展開を見せ始める。著者デビュー作!
卍の殺人
萩原亮子は恋人の安藤匠と共に彼の実家を訪れた。彼の実家は広大なぶどう園を所有し、ワインの醸造も手掛けている資産家だったが、彼自身はその家の実子ではなく、訳あって幼い頃に養子として入った。最近になって、その実家から条件付きで養子縁組の解消を申し出てきた。その条件が、実家に戻って従妹にあたる布施宵子と結婚し、家業を手伝うこと。その条件を飲めない場合は、やむを得ず養子縁組を解消するとのことだった。不安が表に出ないよう、何気ない口調でどうするのと聞く亮子に宵子と結婚するなんてまっぴらごめんだよ、こっちから願い下げだと、養子縁組の解消でもなんでもしてくれとの態度に安堵するのであった。この件の清算と、いい機会だからみんなに紹介したいとの提案で亮子も彼に同行することになった。
方向音痴にはつらい造りをしている不思議な館。上から見ると「卍」の形を構成しており、住人は祖母を頂点に二つの家族(安藤家と布施家)に別れ、微妙な関係を保ちながらも二世帯同居をしていた。着いてさっそく祖母に挨拶と亮子の紹介を済ませ、養子縁組についてもきっぱりと断りの返事を伝えた。これで肩の荷が下りてゆっくり滞在することができるかと思いきやそうはいかない。ここで暮らす住人の寒々とした人間関係を目の当たりにするのであった。
晩餐会で顔を合わせた一族の会話を聞いて亮子は匠がこの家から逃げ出したい気持ちが理解できた。誰もが誰かと比べられて競争を強いられてる。もちろん自然に競う合うことは大切なことだが、ここでは人為的に常にライバルが用意されており、戦わざるをえないような仕組みになっていた。これも全て祖母が仕組んだことで、この家の均衡を保つために必死なのである。匠が抜けることで、長い間続いていた均衡が破られることを何より恐れていた。身内の妙な死に方を例に出して、迷信めいた不思議な力がこの一族を支配しているかもしれないと意味深な言葉で締めくくった。
さて、妙に絡んでくる宵子の相手を済ませて、亮子が部屋に戻ると反対側の部屋で女の影が男の影に首を絞められて倒れる姿を目撃した。急いで部屋を飛び出して駆け付けると品子(宵子の姉)が、また自室で美徳(匠の兄)が死んでいるのが発見された。美徳のワイシャツに品子の口紅が付着していたことから匠は不幸なアクシデントで品子を殺してしまった美徳が自殺したのではとの推理した。また、宵子が匠犯人説で絡んだ一幕では一悶着あった。
その後、笑子(品子と隆広の娘)と幸彦(美徳と三恵の息子)がそれぞれお風呂に入っていると男に襲われる。まぁ、この件はすぐに幸彦のしわざということが判明して(動機は受験勉強から逃れるため)これ以上大事にはならなかったのだが、すぐに次の事件が起きてしまう。
隆広が冷房の効いた自室で殺されているのが発見された。密室めいた状況を造った犯人の意図が読めないし、行動は矛盾だらけで推理はお手上げ、かと思いきや柔軟な発想で新たな道筋を開拓した匠は品子・美徳殺しの犯人は隆広だったのではと前説を撤回して推理し直した。彼の推理にいちいち噛みついて宵子だったが、遺書が見つかったことでそれまで見せていた熱も冷め、警察も品子・美徳殺しは隆広の犯行で、犯人は自殺したという結論を出した。
とんだ正月休みとなったがこれにて一件落着とはいかない。後は東京へ帰るだけの匠を引き留めるために狂言自殺をする宵子。芝居だから戻らないでと咄嗟に腕を掴む亮子。そんな願いも叶わず振りほどいて戻っていく匠。この瞬間、二人の関係は音を立てて壊れ、修復不可能になった。卍屋敷を訪ねたのを境に変化してしまった。やはりここには不思議な力が働いているのか?
二月半ばに二人の出会いの場となった小杉章介家を訪ねると思いがけない展開を見せる!
全てがひっくり返されるこの事件の結末とは?
感想/まとめ
面白かった。デビュー作でこの完成度。ここから数々の名作を誕生したんですね。
さて卍形の屋敷を舞台とした殺人事件。不思議な力、、、いやいや人間の悪知恵が働いていただけ。破滅の先を想像させる終わり方も好みで、ホラーだけでなく本格も面白いと痛感した一冊でした。騙されていた亮子さんもかわいそうでしたが、プラトニックな関係だったらしいことが幸いですね。
このタイプの屋敷を見ると動き出すのではと身構えてしまいますが、今回は別のタイプの仕掛けでしたね。
家系図に違和感を感じたのはなんでだろう?