村崎友さんの「風の歌、星の口笛」を読んでみた 感想
今回紹介するのは村崎友さんの「風の歌、星の口笛」です。第24回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
風の歌、星の口笛
▼マムに異変!探偵ドットの大捜査
探偵をしているドットは、依頼人がまったく来ないので家賃を何カ月も滞納していている貧乏探偵だ。そんなある日、オフィスのドアを開けて現れたのは、上の階に住んでいるビビだった。ロボットのペットが動かなくなったと騒いでいる。飼い主が望まない限り死ぬことはないマム製のロボット。マムとはこの世界を管理している神様みたいな存在だ。
しかし、ドットが見たところ異常を発見することができない。まさか、本当に死んだのか?さらに、彼女の友人のロボットまで死が及んでいた。ありえないことが起きている事態に困惑するドットだった。
▼地球再生を目指す地質学者のジョーと植物学者のクレイン博士
地質学を専門分野とするジョーは、植物学者のクレイン博士とパートナーを組んで人類が宇宙に浮かべた星(プシュケ)を調査するために地球を離れて宇宙にきていた。調査項目は主に生態系、植生、地質、大気などである。すでに瀕死状態の地球を再生するヒントを見つけるためのプロジェクトに参加したためである。
250年後という想像もつかない眠りから目覚めたのにもかかわらず、心体共に健康で安全な旅をすることができたのは、宇宙探査船《クピト》のメインコンピューターの〈ティキ〉が全てを管理してくれたおかげである。〈熊の寝床〉と呼ばれる高性能のベットも心強い味方でサポートしてくれた。
到着したプシュケはすでに滅んでいたのだ。希望を胸に250年もかけてやってきた二人にとっては残酷な光景だった。自暴自棄になりつつあったが、やるべきことの為に調査を開始した。
先行していた探査機からの映像に映し出された箱形の人工物。
出入り口のない箱型の建物の中で、天井に張り付いた状態で死んでいた人の化石のようなもの。
それは、まるで推理小説の密室のようだった。
▼恋人を探す僕
交通事故で入院していた僕は今日が待ちに待った退院の日。内緒で恋人のスウに会いに行こうとしていた。立ち寄った公園の近くでベビーカーを押しているスウのお母さんを偶然見かけたので挨拶しようと近づいた。
お久しぶりです。今日無事に退院しました。ところでスウはどこですかと気軽に話しかけたつもりだが、お母さんは不審な目で赤ちゃんを守るように抱きかかえた。
その子はスウの、、、と考えなしに口から飛び出した言葉にこの子がスウですと返された。いえ、違います。僕が言っているのは、その子ではなくスーザンのことですよの問いには、だからこの子がスーザンですとはっきりと答えられた。
何故か僕とお母さんの話がかみ合わない。最終的に人違いでしょうと走るようにして去って行った。残された僕は、唖然と後ろ姿を見送ることしかできなかった。
ここまでが各物語の序章にあたります。それぞれの主人公がその時代を必死に生き抜いていきます。一見脈絡がないように思われるが、つながりを持っているのは言うまでもないだろう。三つに並行した物語を最後にはしっかりと収束させているので、複数の物語が一つになる系の小説が好きな方は、是非読んでみてほしいですね。
感想/まとめ
面白かった。ミステリー薄めで、がっつりとしたSF小説でしたね。人間にとっては気の遠くなる年月がかかって辿りついたあの結末。切ないような、悲しいような。それでも、すべての物語がひとつに繋がった真実。あの瞬間からまた次世代へと継承が始まるのかな。
自分を犠牲にしてまで未来を取るのか、それとも現在を生きることを選ぶのか、難しい選択ですね。これもまたひとつの愛の形なのでしょうね。
気になったワード
記憶ピアス、、、記憶を弄ることができるとか怖すぎる。
熊の寝床、、、なにそれ寝てみたい。