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近藤史恵さんの「昨日の海は」を読んでみた 感想

今回紹介するのは近藤史恵さんの「昨日の海は」です。海辺の近くにある小さな町で暮らす高校生・光介。夏休みに東京から叔母と従姉妹が引っ越してきた。そのことがきっかけで、生まれる前に亡くなった祖父母の無理心中事件を追うと衝撃の真実が明らかになる。

 昨日の海は

四国の海に面した小さな町で暮らす母父と暮らす高校生の光介。四月から県内で一番頭のいい学校に通う以外は平凡で日本全国どこにでもいる高校生だ。まだ一年生だが、大学進学を目指して勉強中だ。今年の夏休みは海で泳いで、勉強し、父が勤める旅館でアルバイトをして過ごす予定だが、田舎特有の退屈な日常に飽き飽きしていた。

その変化を崩す何かを心待ちにしていた高校一年の夏休み。東京から母の姉である叔母と八歳になる従姉妹を連れて引っ越してきた。二階が彼女たちの生活スペースとなり同居することになった。直前まで知らされてなかった光介は母に抗議の声を上げたが、うまくかわされてしまった。

叔母の芹とは、光介が七歳のときに祖父母の法事で会った以来で従姉妹の双葉とは初対面である。二人とも身なりが東京暮らしに染まっており、垢ぬけた都会の匂いを感じた。

光介が海で泳いだ帰り道に声をかけてきた芹から祖父母のが心中したのはこの海だと聞かされた。母から事前に聞かされていたので驚きはしなかったのだが、次に続けられた言葉で思わず息が詰まった。

「どちらかがどちらかを殺して、一緒に死んだ」可能性があるらしい。どちらかがどちらかを背負って海に入っていく瞬間を目撃した人がいたのだ。母はそれでも心中に変わりないと決着をつけていたが、芹は、私たちを置いていったことを許さないと恨んでいたのだ。

田舎町に帰ってきたのはここで生きるためだが、曖昧なままではいけないことだと沈んでいく夕日を背景に語るのだった。

 

光介は、芹とはもちろん双葉とも仲良くなっていった。慣れない田舎くらしと環境の変化は八歳の少女には大変なこと。学校でいたずらされて相手を怪我してしまったことがあっても、アドバイスを送ること納得してもらうなどお兄さんの一面を見せた。シングルマザーの家庭で大人びることで生き抜ぬくことを覚えてしまったことが可哀想に思えてしまう。それでも仲好くしてくれる友達もできてほっとしていた。

 

写真家の祖父と美人モデルの祖母。そこには光介が知らない世界があった。死ぬ前に開催予定だった写真展が中止になり、借金を抱えてしまうことが心中事件の背景にはあるらしい。

また、芹は祖父母が亡くなってから長年閉ざされていたシャッターを開け、ここで写真店を再開するために動き出していた。

光介も祖父母の心中事件を調べるために、関わりのあった人物に会いに行った。内緒で東京まで足を運んでいたことばバレて怒られてしまったことは予定外だったが貴重な経験と手がかりを得ることができたのは収穫だった。

だが、芹からもうこれ以上真相を探ることは辞めてとストップをかけられた。あれほど知りたかった本人の態度が変わったのは真相に辿りついたのかと推測したが、答え合わせの時間はすぐ訪れた。

芹から語られた真実に納得して大冒険は終わりを告げたのだった、、、とはならず大人になるということでもう少し物語は続くのだった。

 

感想/まとめ

面白かった。

夏休みの間に光介くん成長しましたね。経験値ガッツリレベルアップ。祖父母の心中事件を真相を追って大人になるということを知ったひと夏。

大人が子供に嘘をつく、子供が大人に嘘をつく。お互いに傷つけない優しい嘘に感無量である。

知ることも知らないことも両方勇気がいる。秘密の箱を開けて真相を突き止めたが、これまでと変わらないことはそれだけ今の生活が幸せなことだ。

ちょっぴり大人に成長した光介くんと思いやりが溢れる家族の優しさに触れる物語でした。