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佐藤正午さんの「月の満ち欠け」を読んでみた ネタバレあり/感想

今回紹介するのは佐藤正午さんの「月の満ち欠け」です。あなたは生まれ変わりを信じますか?究極の純愛が待ち受けていた。

 月の満ち欠け

▼小山内堅と瑠璃

語り手は小山内堅。彼は、大学のサークルで知り合い高校時代の後輩でもあった藤宮梢と結婚した。やがて妊娠して生まれてきた娘は、妻のたっての希望で瑠璃と名付けられた。

瑠璃が七歳を迎え、小学二年生になった年に異変が起きた。原因不明の高熱が一週間も続いて瑠璃を苦しめたのだ。小山内は、大病院に連れていく覚悟を決めていたが、一週間後に熱はすっかり下がり回復したのだ。

だが、数日たったある日のこと妻が瑠璃の様子がおかしいと訴えたのだ。

唐突にぬいぐるみをアキラくんと呼んだり、瑠璃が生まれる前に流行った黒猫のタンゴを歌いだしたり、デュポンのライターを知っていたり、学習帳には夫婦にも分からない短歌が書かれていたなど確かに異変が起きていた。

しかし妻の心配をよそに小山内は気にも留めていなかった。

 

十二月に入り、瑠璃が行方不明になってしまう。すぐに見つかり高田馬場駅で保護してとの連絡が入ったので小山内は向かった。何故レンタルビデオ屋へ行こうとしていたのか小山内は瑠璃に聞くことができなかった。そのかわりママが心配するから高校を卒業するまではひとりでどこかに行ったりしないことを約束して平穏を手に入れた。

 

だが、十一年後の約束の年。高校の卒業式を終えた娘は交通事故でこの世を去った。車を運転していたのは妻であり、彼女も即死だった。

 

▼三角哲彦と瑠璃

妻の友人だった三角典子の弟・哲彦がお話しておきたことがありますと小山内を訪ねてきた。瑠璃が生前一度だけ連絡をしてきたこと、一五年前に妻と娘が巻き込まれた事故の日は私に会いに行く途中だったことなどを語り出した。

そしてこれが本筋ですと、三十年余年に渡る長い三角自身の過去を話し始めた。

 

三角は大学二年の時に高田馬場にあるレンタルビデオ屋でアルバイトをしていた。梅雨真っ最中の季節に店の前で雨宿りをしている女性と出会った。同じく青森出身だと分かりしばらく世間話に花が咲いた。その日はそれっきりで別れたが、三角は再会を待ち遠しにしていた。

そして、八月になり映画館で偶然再会したその女性は瑠璃と名乗った。彼女は結婚をしていたが、二人で過ごす時間も増えて急接近していった。ある時、瑠璃は死について語り出した。

「月の満ち欠けのように、生と死を繰り返す。そして未練のあるアキヒコくんの前に現れる」

この日の彼女の本意を知る機会はいずれ訪ねるだろうとうやむやにしてしまったが、一週間後に瑠璃は地下鉄の電車に轢かれて死んでしまった。

三角は彼女の生まれ変わりを信じて一年間棒に振っていた。

 

▼正木竜之介と瑠璃

喫煙具専門店で一目ぼれした奈良岡瑠璃と出会い結婚した。これまで順風満帆な生活を歩んできた正木は子供だけはなかなか出来ずに焦っていた。性行為も次第に愛のない行為へと代わり瑠璃にとっては苦痛でしかなかった。そして、正木が慕っていた仕事先の先輩が亡くなったことで二人の仲は決定的に崩れ落ちた。正木が浮気していると感じ取った瑠璃は置き手紙を残して家を出たのを最後に電車に轢かれて死んでしまった。

正木の人生は一変して荒れた生活を送っていた。

それでも何とか立ち直り工務店に就職した。真面目に働けば能力は十二分に発揮できる環境にある。会社のみんなにも認めれて正木は完全復活したのだ。それから二十年近い年月が流れ、古参の社員として働き続けていた。

何かと正木を頼りにしていたが、なかでも社長の娘・希美(ノゾミ)からは特に懐かれていた。そして、希美が七歳の年に原因不明の発熱に襲われた。数日後にはすっかり回復して、もとの日常に戻ったのだが正木は異変を感じていた。あんなにべたべたしていた正木を避けるようになった。そして希美が瑠璃の生まれ変わりであると確信した正木は、三角の居場所を突き止めて強引に連れだした。

そして三角に会いに行く途中に交通事故で希美が死んでしまう。小学生の女の子を自分の亡き妻だと言い張った正木は異常者として刑務所にぶち込まれた。その後、刑務所内で亡くなった。

 

▼緑坂ゆい

小山内瑠璃の親友だった緑坂ゆいが小山内を訪ねてきた。挨拶もそこそこに彼女は生まれ変わりの話を始めた。妊娠中におなかの子が、自分のことを瑠璃だと名乗る予告夢を見たという。その声は小山内瑠璃の声に間違いなかった。生まれてきた娘にるりと名付けたこと、七歳の年に原因不明の発熱に襲われたことなどを真剣なまなざしで語った。小山内には受け入れがたかったが、小山内瑠璃が三角のことを前世の恋人だと肖像画を残し、その顔が現在の三角と一致していれば、、、揺れ動く小山内の心境は複雑だった。

 

瑠璃の生まれ変わりである緑坂るりから小山内に一つの発言を残していった。生まれ変わりはわたしだけとは限らない。ほかにも生まれ変わりをする人はいると、堅さんと呼ぶ子がいたら本物かもねと。

八年前から交際している彼女の娘・みずきが堅さんと呼ぶことを思い出していた。

 

そして、二度の生まれ変わりの失敗を経て、三度目の正直。ここからるりとアキヒコの物語は始まるのだった。

 

感想/まとめ

面白かった。生まれ変わりを信じてしまうほど濃密なストーリで酔いしれた。現実世界でもありそうなと思えてしまうほど卓越した文章力で読むことができた。非日常を日常にする不思議な力で不気味さや怖さも感じてしまう。生まれ変わってもあなたに会いに行くと純愛で響きはいいが一歩間違えたらアウトになってしまう。最後に運命の再会した時の年齢差を見ればちょっとね。それでも本人たちが幸せなら、良いのかな。

小山内堅さんがみずきちゃんを見る目が変わってしまい、日常生活がギクシャクしないか心配だ。この形でも、また愛する人と傍で生きることは幸せなのかな。

 

とにかく大満足の一冊でした。

 

瑠璃も玻璃も照らせば光る:すぐれた才能や素質は、どこにいても目立つ。この小説で覚えて忘れないようにしとこう。