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安倍雄太郎さんの「僕の耳に響く君の小説」を読んでみた 感想

今回紹介するのは安倍雄太郎さんの「僕の耳に響く君の小説」です。小説により出会い、小説により別れた青春純愛物語。

 僕の耳に響く君の小説

僕こと夏目朔太郎と冬月朧は大学の文芸部の仲間だった。価値観の違うふたりが小説によって引き寄せられ、お互いのために小説を書き切磋琢磨して向上していった。そして、いつの間にか恋心が芽生えるまで接近していた。言葉にしなくても溢れだす幸せな空気、恋人同士になる瞬間はそう遠くないはずだった。しかし、その感情に亀裂が入る出来事が刻々と近づいていた。

 

ある日、小説新人賞へ勝手に冬月の小説を応募してしまった夏目。冬月と真剣勝負がしたくてプロの選考委員に判断してほしいとの思いで取った行動。勝負小説として渡された小説は、正直今まで読んできた彼の小説で一番つまらなかった。それでも冬月の小説が目標だと熱く語る彼の言葉に喜びと寂しさを覚えてしまった冬月。彼女は、勝ち負けよりお互いに小説を書き、読み、感想を言い合うふたりだけの時間が何より大切に思っていた。そしてここが二人の分岐点だった。

 

冬月だけが受賞して夏目は落選。この現実を受け止められなかった夏目は、小説を書くことをきっぱり辞めて公務員になるため勉強をスタートした。冬月も担当編集者と出版に向けて作業をスタートした。あの仲の良かった二人は、もういない。別々の人生を歩み出していた。ぎくしゃくした二人の関係は卒業後も続き、次第に連絡することも少なくなっていった。それから数年久しぶりに冬月の誕生日に会おうと約束をした返事を最後に冬月朧はこの世を去った。享年二七歳。睡眠薬の多量摂取による自殺だった。

 

彼女が死んだ日、彼女に誘われたカフェに夏目はいた。驚いたことにそこに冬月そっくりな少女がいて、小説を書いていたのだ。すぐに正体は判明した。冬月の妹ー光だった。夏目にお姉ちゃんの為に小説を書いてと願い、未だ払拭できないでいた嫉妬心に一旦は断ったが、夢に冬月が出て本人が背中を押してくれた。誕生日のため、冬月のために渾身の小説を書く決意をする。

 

小説により引き寄せられ、小説により引き裂かれた二人の運命。恋心、才能、嫉妬が渦巻き、失ってから見えて来たもの。

 

感想/まとめ

面白かった。夏目君の行為にはちょっとイライラした部分もあったが、読み終えて振り返るとそういった気分も消えていた。

不器用なふたりだったんだよね。たったひとつのきっかで違った未来を歩むことができたのにと想像してしまう。切ないけどそれがすべてではない。小説として彼女の生きた証は残る。後を追うように小説家としてデビューした夏目君も頑張って欲しいね。妹さんが勝手に小説を応募した件は、やり返された形ですが予期していなかった。さすがですね。