~読んできた本の足跡~

~のんびりまったり日々読書~アニメや雑談も~

横溝正史さんの「悪魔が来りて笛を吹く」を読んでみた ネタバレあり/感想

今回紹介するのは横溝正史さんの「悪魔が来りて笛を吹くです。旧華族の没落と頽廃を背景に、近親相姦というタブーを含み、実在の事件や太宰治の「斜陽」などの要素を取り入れ、他作品と異なった内容が光り、名作中の名作と呼び声の高い、金田一シリーズ。

 悪魔が来りて笛を吹く

1947年(昭和22年)9月28日、金田一耕介のもとに椿美禰子(つばきみねこ)が依頼人として訪ねてきた。彼女はこの年の春に失踪事件を引き起こし、また世間を震撼させた「天銀堂事件」の容疑者として警察から取り調べを受けていた元子爵・椿英輔(つばきひですけ)の娘であった。その後、椿英輔は山中で遺体として発見され、美禰子に宛てた遺書もあり、自殺として処理された。しかし、美禰子の母・秌子(あきこ)が父に似た人を目撃したと怯えており、本当に生きているのかどうか、占ってみることになったので是非とも金田一にも参加して欲しいとの依頼だった。後日、椿家を訪ねた金田一は、電力事情を考慮して行われる計画停電を利用した占い、、、砂占いの席で一族の紹介を受けた。

 

~椿家~

椿英輔(つばきひですけ):椿家当主。元子爵。「天銀堂事件」の容疑者として警察から取り調べを受けていた。その後山中で遺体となって発見され、自殺として処理される。「悪魔が来たりて笛を吹く」という題のフルート曲の作曲並び演奏者である。

椿秌子(つばきあきこ):英輔の妻。美禰子のような大きな娘がいるとは思えないほど美しい。

椿美禰子(つばきみねこ):英輔の娘、依頼人。父の死に作為的な疑いを抱き、等々力警部からの紹介で金田一に調査依頼を頼んだ。

信乃(しの):秌子の世話人

三島東太郎(みしまとうたろう):英輔の友人の息子。商売上手で椿家にとって必要不可欠な人になっている。また、戦争で指を失っている。

種(たね):女中。

目賀重亮(めがじゅうすけ):秌子の主治医。秌子との関係あり。砂占いの発起人。風貌から蟇仙人と呼ばれている。

 

~新宮家~

新宮利彦(しんぐうとしひこ):元子爵。秌子の兄。怠け者のくせに贅沢で道楽者。そのくせ臆病で影弁慶であり、人見知りをする。お酒に逃げることも多く、皮膚が温まると左肩に火焔太鼓が浮かび上がる。

新宮華子(しんぐうはなこ):利彦の妻。

新宮一彦(しんぐうかずひこ):利彦の息子。美禰子のいとこ。英輔のフルート弟子。

 

~玉虫家~

玉虫公丸(たまむしきみまる):元伯爵。利彦と秌子の伯父。

菊江(きくえ):美しい小間使い。妾でもある。

 

目賀重亮(めがじゅうすけ)が司会となって風変わりな砂占いが進められた。停電時には一瞬のざわめきが起きたが、しかりつけるような祝詞の声で場を制圧、暗闇の中で続けられた。計画停電が終わり、電気が戻ってすぐにあたりを警戒した金田一だったが、異常はなく安堵した。しかし、砂の上に残された火焔太鼓のような模様に異様な反応を見せた者が現れ、またどこからか「悪魔が来たりて笛を吹く」のメロディーが流れてきた。その影響でか体調を崩した秌子を心配して砂占いは中止になった。その夜、元伯爵・玉虫公丸(たまむしきみまる)が殺され、惨劇の幕が切って落とされた。

 

等々力警部と金田一は関係者から被害者発見までの行動を聴取した。すると黄金のフルートを口に当てた椿子爵に似た人物が昨夜も現れていたことが判明した。また警察は庭から椿子爵のフルートケースを発見し、その中には「天銀堂事件」で盗まれたイヤリングが入っていた。等々力警部から椿子爵が「天銀堂事件」取り調べを受けた経緯などの説明を受けて、その発端となった密告者は内部事情に精通していることから身近な人物に絞られた。現場に残された火焔太鼓と同じ痣を持つ新宮利彦(しんぐうとしひこ)も砂占いの席で異様な反応を見せた者たちの理由は説明できなかった。椿男爵の手帳にも描かれていたマーク、、、事件解決への一つの鍵となる。

 

「天銀堂事件」の椿子爵のアリバイ証明を再確認するために金田一と出川刑事は須磨の方へ向かった。遺書が書かれた時期から逆算すると、椿子爵の自殺理由は事件以外のところにある。「これ以上のの屈辱、不名誉にたえられない」という言葉の意味を知る鍵が、今回の旅、すなわち椿子爵の謎の旅行をトレースすることが重要だと考えていた。椿子爵が宿泊した三春園という旅館の女将さんからかつてこの辺に玉虫伯爵の別荘があったこと、別荘に出入りしていた植木屋の植辰親方の娘・駒子が妊娠したこと、小夜子という娘を生んでいたことなどが判明した。その後、金田一は別荘跡地を訪れ「悪魔ここに誕生す」という椿子爵の筆跡に似た落書きを発見した。

 

別行動をしていた出川刑事からの情報で植辰親方は空襲で死亡したこと、駒子の妊娠を境に金回りが良くなったこと、抱えていた妾に生ませた治雄という息子がいたことなどが判明したが、これ以上のことになると線が切れてしまって辿ることができないでいた。しかし、同棲していた妾・おたまを訪ねてきた淡路島の妙海尼の特徴が駒子と類似しておりの、椿子爵も彼女を訪ねて淡路島へと向かったことが予想された。椿子爵は玉虫家、新宮家に関する何かを調査していたことは間違いなかった。

 

しかし、金田一らが辿りつく前に妙海尼は殺害されていた。妙海の世話をしていた隣村の住持・慈道から小夜子の父親が新宮利彦であること、小夜子が自殺して死んでいること、やはり椿子爵が訪ねてきたことなどが判明した。徐々に事件の骨格が組み立てられていく中で、東京の椿邸で新宮利彦が殺されたとの連絡が入った。妙海が危惧していた彼の死が現実となってしまった。

 

金田一が東京へ戻ってからすぐに等々力警部から説明を受け、関係者から聞き取りを開始する。利彦が殺された晩は秌子、お種、利彦をのぞいて家の者はほとんど外出していた。秌子の指輪が殺害現場から発見されたことで、この状況を利彦が意図的に作り出したことを金田一は見抜いた。金を無心するために邪魔者をどこかへ追い出すために企てたものだった。

金田一からの助言により、もう一度椿子爵以外の「天銀堂事件」の容疑者を洗っていくと飯尾豊三郎という男が無残な姿で死んでいるのが発見された。また、シリーズお馴染み磯川警部に別件で調査を依頼していた返事が届いた。それによるとすでに三島東太郎は死亡しており、椿家に厄介になっている三島東太郎はニセモノであることが判明した。さらに自殺した小夜子は妊娠しており、相手は植辰親方の息子・治雄の可能性が高い。戦傷のため指を失っている特徴が一致し、三島東太郎=治雄という結論に辿りついた。

 

その後、秌子も何者かが仕組んだ青酸カリで死んでしまう。

金田一が一同を前にして推理を披露し、犯人を指摘する前に三島東太郎もとい治雄は名乗り出た。彼の肩には新宮利彦とそっくりの火焔太鼓の痣があり、殺害動機につながる衝撃の告白を語り出した。

 

感想/まとめ

面白かった。

複雑すぎて濃すぎる関係性にドロドロとした負の感情が脱ぎれないまま感想を書いていますが、その反面魅入られている自分がいることに驚いた。シリーズ通して名作中の名作と言われているのも納得する。

悪魔が来たりて笛を吹く」のタイトル回収もお見事です。悪魔とは誰のことか最初から暗示していたことの証明であり、その仕掛けにはゾクッとする不気味さも孕んでいた。