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有栖川有栖さんの「朱色の研究」を読んでみた 感想

今回紹介するのは有栖川有栖さんの「朱色の研究」です。大学の教え子から未解決殺人事件の調査を依頼された火村は、アリスとともに当時の関係者に接触を試みる。その矢先、火村宛に新たな事件を予感する電話が入り、二人は渦中に巻き込まれていく。作家アリスシリーズ第四弾!

 朱色の研究

英都大学助教授の火村は、ゼミの教え子貴島朱美から二年前の未解決殺人事件を調査して欲しいと依頼を受けた。さっそく事件当時の関係者である宗像正明に事情を聞きに向かうが、彼女から聞いた住所はなんとアリスが住んでいるマンションの近所だった。こうしていつもの流れで火村の調査にアリスも同行するのであった。

 

朱美の家庭の事情についての説明が入る。両親を事故で亡くして、伯母の真知の許へ引き取られた。両親の死からやっと落ち着きを取り戻した頃、今度は火事の被害に遭ってしまう。真知の父・宗像庄太郎が火だるまになってもがきながら死んでいく瞬間を目撃してしまい、心に傷を深く追ってしまった。そのことが影響してその場面をフラッシュバックする悪夢を見続けていた。また、オレンジ色症候群という精神的苦痛にも悩まされている。

 

アリス宅に一泊した翌日早朝火村宛に今すぐオランジュ夕陽丘の806号室に行けと、謎の人物から電話がかかってくる。そこは正明が住んでいるマンションでもあり、二人はわけが分からないまま言われたとおり指定された806号室に向かった。鍵はかかっておらず、柑橘系の匂いがかすかに漂っており、ちょっと前まで何者かがここにいた形跡だけが残されていた。火村は、異常がないか念入りに部屋を確かめていく。そして、浴室で男性の他殺体を発見する。

 

被害者は、正明の伯父で山内陽平だと判明した。彼もまた二年前の事件の関係者であった。事件のあらましは、和歌山にある宗像家所有の別荘近くで、山内陽平と親しかった大野夕雨子という女性が殺害されたこと。別荘付近の浜辺で頭を鈍器のようなもので殴られており、遺体の上には石が落とされていた。彼女が倒れていた後ろは崖になっており、崖の上から落とされたと考えられた。理解に苦しむ行為だが、何か理由があるのか?

 

さて場面は山内陽平殺しの事件に戻る。連絡を受けた正明の母・宗像真知と妹・亜紀が駆け付ける。そこで火村は母娘に、ここにくる直前に道ですれ違った人物の特徴と柑橘系の香りのことを尋ねると正明の高校の後輩である六人部四郎の名前が挙がった。すぐさま呼び出された六人部は、オランジュ夕陽丘に立ち寄ったことを認め、理由を語り始めた。ある秘密を公にされたくなかったらこちらの要求を呑めとの文面が書かれた正体不明の差出人からの手紙。その指示に従って動き、最終的に明け方の午前六時近くまで806号室で待機していたという。さらに浴室には死体はなかったと証言し、彼の言葉を信用するのであれば、火村達が806号室を訪ねたわずか数分の間に何者かが遺体を運び込んだことを意味した。どちらにせよ現時点ではこれ以上有力な手掛かりはなく、実況見分も不発に終わった。

 

結局は夜に再度検証を行うことで、806号室ではなく906号室にいたことが証明された。これによって六人部の疑いは晴れることになる。これは一件落着といわけではなく、事件はふりだしに戻っただけだ。誰が陽平を殺したのか不明である。すると、火村ができれば別荘の方を拝見したいと言うので正明や朱美が案内役として、また何人かの関係者も同行することになった。

 

朱色を象徴する三つの事件。火村が辿りついた夕日に秘められた意味と真相とは?

 

感想/まとめ

面白かった。

夕日が見せる禍々しさや神々しさ。美しさの象徴なのか、それとも哀愁を感じるか。いやいや、奈落へ引き落とされそうな不気味さも孕んでいるのか。読み終えた僕も、何とも言えない寂寥感を感じ、朱色に魅せられているのだろうと深読みしてしまう。

 

依頼者が教え子とくればお約束の展開として朱美が助手となってこの先も出番があるだろうと考えてしまうが、このシリーズでは邪道なのでしょうね。火村さんとアリスの間に割って入る無謀者はいないでしょう。また、偶然にも火村さんの悪夢がこの形で知り得たアリスの心境はいかなるものか。あれこれ想像してしまいますね!