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島田荘司さんの「リベルタス寓話」を読んでみた ネタバレあり/感想

今回紹介するのは島田荘司さんの「リベルタス寓話」です。ボスニア・ヘルツェゴヴィナで起きた奇々怪々な猟奇殺人事件に御手洗が挑む!中編「クロアチア人の手」も同時収録。

 リベルタスの寓話

▼リベルタスの寓話

ハインリッヒ・レーンドルフ・シュタインオルトのもとに、NATO北大西洋条約機構の犯罪捜査課から国際電話が入り、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ共和国のモスタルで常識人の想像を絶するような、奇々怪々な大事件が起きたことを知った。捜査は難航し、我々には手に余る状況になってきたので、あの御手洗潔ならばこうした奇怪事件にも説明や解決してくれるだろうと考え、彼と友人であるハインリッヒに連絡してきたというのが事の顛末であった。御手洗の都合が悪く動けないとのことで、ハインリッヒが代役となり捜査課のキップリング少尉から事件の概要を聞くことなった。

 

モスタルでの怪奇事件は、二十一世紀の切り裂きジャック事件と呼んでも不自然さを感じないほどに凄惨なものだった。現場となった古いビルの一室で発見された四体の男性の遺体のうち、三体は頭部が切断されていた。そのうちの一体は、目をそむけたいほどに酷いありさまで、腹部が強引に開かれ心臓以外の内臓が全て取り除かれていたのだ。さらに取り除かれた内臓に代わり、形の似た別の物が詰め込まれており(肺の代わりに飯盒の蓋、肝臓の代わりにフラッシュライトなど)異様な光景が広がっていた。驚きはこれで終わりではなく、遺体全てから男性器が切断されており、他の臓器と一緒に持ち去られていた。その後の捜査で持ち去られた臓器の大半は発見されたが、何故か腸だけは見つけることができなかった。

 

重要容疑者として名前が浮上したのはディンコ・ミリシェビッチというクロアチア人で、遺体の一つであるリュボミール・クラバッシというセルビア人は、彼の妻の自殺の原因を作った張本人であったことから殺害するには十分の動機をあった。しかし、本人は真っ向から否定した。現場には犯人だと思われるO型の血痕が見つかったが、ディンコの血液型はA型だったため一致しない。さらに、再生不良性貧血という難病に侵されている肝臓がん患者のため、これ以上踏み込むのにはさらなる慎重さが求められた。血液という科学的根拠が彼を厳重に守っていたのだ。

 

そんな彼が語ったリベルタスとの言葉。どうやらこれはリベルタスの寓話のことを指しているのではと考えられた。

クロアチアの原点、自治都市国家のドゥブロブニク。多民族が共存共栄していおり、リベルタス(自由)という概念が、彼ら多民族をひとつにまとめていた。総督選挙では、公平さを保つためにリベルタスと呼ばれる小さなブリキ人間が登場する。厄介な利害関係を知らぬ子どもが中に入って、選挙のお手伝いをしていた。また、隣国から攻められて絶体絶命の中でこのブリキ人間リベルタスに心臓以外の内臓は代役で詰め込むと、ある少年の魂が甦り敵を追い払ったという寓話も残されていた。

奇々怪々で凄惨な事件は、こういった寓話を擬えたものだと判明するが、ディンコが犯人だと示す決定的な証拠は今だ見つかっていない。

 

ようやく用事が一段落した御手洗が体はまだ空かないが、考えることはできるというので現地入りしたハインリッヒが今日知ったこと、見たものを全て事細かく話した。それだけではまだ正当な推理のための正当な材料が足りないとハインリッヒに指示を出して犯行を復元していく。その甲斐あってか事件の真相に近づきつつある実感があるものの物的証拠はまだ見つからない。

 

ディンコが明日退院するという情報が入り、身柄を押さえるために彼が入院しているストラック大病院へと向かうことになる。強引な拘束や間違いを犯せば国際問題に発展する恐れがあり、冗談抜きで戦争になる可能性もあると警鐘を鳴らした。そう語った御手洗は、現時点で入手済みの材料で論理的思想に基づいた正当な推理を組み立てていく。

 

ディンコが激しい復讐心を燃やしていたのはクラバッシに対してだ。それなのに恨みを晴らすように腹を切り裂いたのはバキル・クルポという男の方だった。犯行を復元して見ると、もともとクルポの腹を切り裂くことは計画していたことが分かる。だが、彼の臓器を運び出す予定はなかった。急に計画を変更してまで臓器を運び出そうとした理由は現場で価値がある何かを見つけたからだ。プラスチックのコイン、その正体がクラバッシが廃墟ビルでせっせと集めた金であることを見抜いたディンコは横取りしようとした。そこで必要になったのが、未だに発見されない腸だ。容器の代用として腸にコインを詰めて運び出していたのだ。そして腸を盗ったことがバレないように、内臓を全部外に取り出すとともに、代わりにさまざまな代用品を詰め込んで、クロアチアの伝承話「リベルタスの寓話」に見立てたのだ。

また、再生不良性貧血という難病のためにディンコは骨髄移植が必要だった。奇跡的に型が一致したクルポの骨髄幹細胞を盗るために、腹を切り裂いて殺した。これがクラバッシよりクルポの体が選ばれた理由である。

計画外のコインを発見し、思いつきで内臓類を運び出し、代用品を詰め込むカモフラージュと「リベルタスの寓話」の見立てで事態は複雑化し、奇々怪々な様相を呈したこの事件はこのようにして誕生したのであった。

 

クロアチアの手

2006年2月。日本・俳句好きのクロアチア人(ドラガン・ボジョビッチとイヴァン・イヴァンチャン)が滞在中の芭蕉記念会館で一人が密室で、もう一人が会館前の交通事故で爆死したという不可解な事件が起きた。捜査を担当する寄居刑事は、先輩の竹越刑事から連絡先を聞いたと言い、御手洗を頼って電話してきた。スウェーデンにいる彼を頼る前にまずは石岡が事件の概要を聞き、窓口役になるお馴染みのパターンである。

密室で殺されたイヴァンチャンの死因は溺死。顔と右手をピラニアに食われており、水槽に上半身をを突っ込んだ状態で発見された。また犯人だと思われるボジョビッチは、交通事故に遭った際にトランクが爆発して爆死した。トランク内を丹念に調べても爆発物は何も発見できない。さらに、何故かイヴァンチャンの荷物を持っていたことも判明し、常人には到底理解できない方向へと事件は傾きかけていた。

遠い異国から御手洗が導いた推理とは?

 

感想/まとめ

面白かった。

米澤穂信さんの『さよなら妖精』でユーゴスラビア紛争のことをかじった程度ですが、調べていたことが生きた、、、といってもウィキペディアをちょっと覗いただけですが。民族紛争の歴史をまざまざと見せつけられた気分で、柄にもなく色々と考えてしまう。

 

骨髄移植して血液型が変わるといった話は、名探偵コナンの本堂瑛祐くんのエピソードを覚えていたから、納得が早かった。だいたいこういった知識は、金田一少年の事件簿名探偵コナンなどのマンガから吸収しているので大助かりだ。

 

あとがきでも補足されているように、事実と虚構との境界線の判断が難しいが、「リベルタス」という創作とオンラインゲームの仮想通貨が現実世界に押し寄せる問題点を組み合わせて誕生した「リベルタスの寓話」という素晴らしい小説に出会えたことに感謝したい。

 

悲しいけど、結局のところ人間が一番恐ろしいのかな~