井上ひさしさんの「十二人の手紙」を読んでみた ネタバレ/感想
今回紹介するのは井上ひさしさんの「十二人の手紙」です。手紙形式で物語が描かれている短編集。多彩な仕掛けや趣向が随所に施されており、手紙ならではの良さを読者は認識するであろう作品である。
十二人の手紙
▼プロローグ 悪魔
就職のために上京してきた柏木幸子。都会での生活に胸を高鳴らせていたが、既婚者である社長と不倫関係になってしまう。奥さんと別れて一緒になるという言葉を信じていた幸子だったが、その言葉は本心ではなく、嘘偽りであった。最後の拘置所からの手紙が何とも言えない気分にさせてくれる。
柏木幸子:就職のために上京。弟思いである
柏木弘 :幸子の弟
船山太一:幸子の会社社長
▼葬送歌
劇作家志望の女子大生が、自作の脚本を先生に送って批評してもらうお話し。手紙に挿入された脚本も読み応えもあって面白いのですが、先生からの返信とそのオチ。すっかりやられました。
小林文子 :女子大生
中野慶一郎:作家
▼赤い手
出生届、死亡届、婚姻届など二十四通にも及ぶ書類のみで構成されたお話し。短編集のなかで異彩を放っており、最後の本人による手紙に心を乱された。
前沢良子:手紙の中心人物
吉川俊夫:飲酒運転により良子を轢いてしまう。
▼ペンフレンド
北海道旅行を計画している文具会社に勤める本宮弘子。雑誌に投稿して案内役のペンフレンドを募ったところ数名の男性が名乗り出た。検討した結果、一人の男性にお願いすることを決めた。そのことを同じ会社に勤める西村に話すと、あることに気が付いて、、、
この流れは見抜けたぜ!
本宮弘子:文具会社に勤める
西村光隆:弘子と同じ会社に勤める青年。
▼第三十番善楽寺
赤い手で少し登場した吉川俊夫について描かれるお話し。
あの飲酒運転事故で自らに課した生き方とは?
吉川俊夫 :倒れていた所を村野に助けられる
村野扶美子:職員
▼隣からの声
新婚夫婦なのに夫がいきなりの長期出張。妻から夫に向けた心境を嘆いた手紙には隣に引っ越してきた住人と知り合いになったと報告がされていた。しかし、次第に自分の様子を書かずに、隣人のことを書き綴るようになり、調子がおかしい。いったいどうしたのだ?
地球が狭いの上手さが光りましたね。
水戸悦男:海外へ出張中
水戸博子:悦男の妻。主婦
▼鍵
山に籠って画家の仕事の精を出す夫を寂しく待っている妻の手紙のやりとり。ある日のこと自宅に強盗が押し入り、絵が盗まれたと報告が入る。早く帰ってきてほしいと促すが、夫は手紙に隠された矛盾を指摘して、警察に真相を知らせてしまう。いったいどういことだ?
個人的に一番好きかも。頭文字をとったパターンですね。狂言でよかった。
鹿見木堂:聾唖者。画家
鹿見貴子:木堂の妻
▼桃
セレブの婦人団体が養護施設にボランティアの申し出の手紙を送ったところ、ある小説に沿って断られたお話し。有難迷惑の教科書みたいな感じですね。
片桐枝美子:婦人団体代表
小原純子 :養護施設学園長
▼シンデレラの死
どん底からの復活。演劇で再起を図る学生のお話し。悲しいラストでしたね。
塩沢加代子:演劇で再起を図る学生
青木秀雄 :高校教師
石原貞二 :高校教師
▼玉の輿
父の看病のためにタイトル通り玉の輿に乗った女性が、元恋人に宛てた手紙。内容もさることながら引用されたと知って驚愕した。
長田美保子:父の看病のために結婚したが、上手くいかず。
高橋忠夫 :元恋人で先生
▼里親
バーで働きだした女性は作家志望の青年に好意を抱くようになった。しかし青年はいつもこっぴどく叱っていた師匠を殺してしまう。罪をかぶるつもりでいた女性が気がついた勘違いで起きた真相とは?
甲田和子:バー店員
藤木英夫:中野の弟子
中野慶一郎:作家。
▼泥と雪
夫の浮気に悩んでおり、意地でも離婚しない女性の元に学生時代好きだったという男性から手紙が届く。結婚生活が上手くいってないと知り、心配になって連絡をくれたのだ。やりとりをしているうちに冷静になり、離婚を前向きに捉えるようになったが、実はこの一連はある人物の計画通りだった。
うわ~。そうくるか。
津野真佐子:夫の浮気に悩んでいるが、離婚には難色を示す
津野次郎 :真佐子の夫
水原友子 :浮気相手
佐伯孝之:学生時代の真佐子に惚れていた
▼エピローグ 人質
これまで上記の物語に登場した人物が、ホテルに閉じ込められた人質になって再登場する。登場人物はどういったその後を過ごしているか、後日談という位置づけも付加されている。
犯人は柏木弘。要求は幸子を釈放し船山太一と会わせることだ。
本宮弘子と西村光隆(ペンフレンド)は新婚旅行
長田美保子と高橋忠夫(玉の輿)よりを戻して高校教諭夫婦
吉川俊夫と村野扶美子(第三十番善楽寺)は年の差夫婦
鹿見木堂と鹿見貴子(鍵)は仕事
小林文子(葬送歌)スキー旅行
船山太一(悪魔)スキー旅行
甲田和子(里親)水商売の陰気な女性に落ち着いている
小原純子(桃)この近くの孤児を迎えにいき巻き込まれる
青木秀雄と石原貞二(シンデレラの死)同窓会並びにスキー旅行
水戸悦男と水戸博子(隣からの声)オーストラリアに行く予定
津野次郎と水原友子(泥と雪)浮気旅行
船山太一の死には巧妙に仕組まれた謎があった。
それを見抜いた鹿見木堂が語りだして、物語は終わる。
感想/まとめ
面白かった。一風変わった手紙形式で描かれた人間ドラマ風短編集。本屋さんで見かけて昔中古で購入して積んでいたことを思い出して読んでみたら、すごく良かった。今では希少価値となった手紙や文通の素晴らしさが詰まっていましたね。
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