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西澤保彦さんの「収穫祭 上」を読んでみた ネタバレ少々/感想

今回紹介するのは西澤保彦さんの「収穫祭」です。台風の影響で孤立してしまった首尾木村で大量猟奇殺人事件が発生した。生存者は数名の中学生と教師のみ。多くの謎の残したこの事件は英会話教室の外国人講師による犯行だと断定され幕を閉じた。それから数年後、ある記者が事件の取材を始めると、ふたたび同様な手口の事件が発生する!

 収穫祭

 ▼第一部 1982年 8月17日

物語の舞台は首尾木村北西区。老朽化した東南二つの橋によって外部と繋がっている小規模な村である。この北西区に住んでいるのは六世帯。総人口、僅か十四人。深刻な過疎化が目立つ。小学校が存続していた時期は人の往来で賑わいを見せていたが、やがて少子化の影響で廃校になると、一気に寂れていった。

さて、大型台風が接近した1982年8月17日。村の北西区に住む中学生・伊吹省路(ブキ)は夏休みに入ってからというもの、畑仕事を手伝わされっぱなしでいた。この日は幸か不幸か台風のおかげで久々に暇ができたことで、少し離れた最寄町、南白亀町(村人はお町と呼ぶ)に映画を見に出かけた。

お町に向かう途中で、同級生・小久保繭子(マユちゃん)一家&村人たちや友人・元木雅文(ゲンキ)&空知貫太(カンチ)と会って立ち話したのち、お町の映画館でSF映画を鑑賞した。映画館を出ると、先ほどとは比べ物にならないほど天候が悪化していた。わけあって別居中の父親に村の出入り口、南橋の前まで送ってもらい事なきを得た省路だったが、すぐに村の異変を察知した。

台風の影響で川の水位は上昇し、老朽化した橋はいつにも増して悲鳴を上げていた。渡り慣れている省路でさえ怖さが先行し、恐る恐る渡っていくとガソリンの匂いが鼻を突いた。虹色に輝く地面を確認し、滑って転倒しないように注意して進もうとしたら、前方からこちらに向かってくる人影に気が付く。省路が通う中学校の卒業生・鷲尾嘉孝であったが、尋常でない様子でふらふらと夢遊病のような症状で省路の横を通り抜けて去って行った。すれ違いざまに彼が落とした高級腕時計を拾った。

その後、ゲンキとカンチと会って立ち話していたら、突如悲鳴が響き渡った。三人がそちらの方向を振り返ると雨合羽姿のマユちゃんがいた。しかし、彼女もまた尋常でない様子で全身を震わせており、駆け寄るといきなり泣きじゃくってしまう。要領を得ない会話からどうやらマユちゃんの家で異変が起きたらしく、省路とゲンキが確認に向かった。そこで二人が見たのは、両親とも無残に殺されていた凄惨な現場だった。嫌な予感が漂い村中を駆け巡って生存者を捜すが、ほぼ全滅であった。

台風の影響で橋が流されて孤立してしまった首尾木村。なんとか外部に救助要請しようと中学生組は知恵を絞って行動に移すが、台風と見えない犯人が立ちふさがる。

被害者数が十四名にも及ぶ大量猟奇殺人事件の結末は、南白亀町の英会話教室の講師・マイケル・ウッドワーズによる犯行だと断定され幕を閉じた。生存者は、省路、カンチ、マユちゃんの中学生三人と川嶋浩一郎(教諭)だけだった。

 

第二部 1991年 10月

事件から9年後の1991年10月。繭子のもとにフリーライターの涌井融があの忌まわしい事件の取材がしたいと接触してきた。犯人とされたマイケル・ウッドワーズの尊父・ジェイムズ・ウッドワーズからの依頼で事件を再構成し、再検証しているという。ご高齢で身体の不自由なジェイムズの代理人の外国人女性のジャネットと共にあっちこっち回っていると説明した。マイケルの無罪を証明したいので事件関係者の繭子に是非とも協力して欲しいと願い出た。

 

靄のかかる気持ちの整理をし、協力に賛同した繭子。あの日の記憶にがっちりと厳重に何重にも鍵が掛かっている繭子だったが、第三者が間に入ることで事件を再構成し、再検証していくと少しずつだが確実に解れていった。涌井融の取材で省路やカンチの現状が、また記憶の封印が解かれた繭子の証言により、事件当日の村人の行動歴など空白になっていた多くの謎が少しずつ明らかになっていく。また、プライベートでも涌井融や剣道場の息子・石動健作と深い関係になっていた。ここまでスムーズに紐解かれていた事件だが、鎌を凶器として使用し、首尾木村事件を類似したような猟奇殺人事件が発生する。

 

急展開を見せ始めた収穫祭は、最後の最後で予想外の展開を見せる。

 

収穫祭〈下〉に続く。

 

感想/まとめ

面白かった。

特に第一部で描かれた猟奇殺人事件は圧巻である。孤立した村で親しい村人が次々と何者かに殺されていく。台風で大荒れの天候の中で殺人犯がこちら側に紛れ込んでいるという恐怖と闘いながらも、生き抜くために知恵を絞って打開策を練っていく。細かい所にツッコミどころはありますが、全体を通して伝わってくる形容しがたい恐怖が覚めることは、最後の最後までないでしょう。

第二部は、大人になった繭子を軸に展開してく。トラウマの影響で記憶の欠如、混濁しており、肝心なところをまったく忘れてしまっている繭子だったが、フリーライターの涌井融の出現と共に事件の再検証を行うことで、事件の様相が顕在化してくる。性格が破綻したのか、それとも本来の彼女を取り戻したのか不明だが、繭子の性的な描写には驚いた。

 

西澤作品を好む僕としては不意を突かれた作品だったが、最初の述べたように面白かった。唯一つ注意する点を挙げるとすれば、この小説は好みがはっきりと分断されそうだ。最初に西澤作品を読むとするなら是非とも七回死んだ男をおススメしたい。

 

では下巻で決着をつけましょう!