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島田荘司さんの「UFO大通り」を読んでみた ネタバレあり/感想

今回紹介するのは島田荘司さんの「UFO大通り」です。鎌倉の自宅で、異様な姿で死んでいた男。近所のおばあさんが目撃したと語るUFO話から辿りついた御手洗の衝撃推理とは?中編「傘を折る女」も同時収録。

 UFO大通り

▼UFO大通り

 1981年(昭和56年)のある日、御手洗と石岡はいつものように馬車道を散歩をしていると松島めぐみという小学生の女の子と知り合い相談を受けた。それは近所のお婆さんの小平ラクが自宅の前を宇宙人三人がUFOに乗って通るのを目撃したと言う荒唐無稽なお話しであった。さらにテレビ局のインタビューにも出演して大々的に広まってしまったこの件を心配した息子が老人ホームに入所させようと動き出していた。ラクさん宅が子どもたちの溜まり場になっており、居なくなったら寂しいし困ると深刻そうに話す彼女を安心させるために、宇宙人がいることを証明する難題を引き受けた御手洗だった。

 

さっそく彼女と別れたその足でラクさんご本人に詳細を聞くために会いに行った。突然の訪問にも親切に対応してくれて好感の持てるご老人のラクさんは、早起きで、いつも明け方に縁側に座ってお茶を飲むことを日課にしていた。いつもの日常とは違った光景を説明する彼女の口から飛び出してきた光線銃での戦闘に悲鳴と火花と煙という言葉が我々らが想像する宇宙人戦争を物語っていた。けれどその割には深さマチマチの穴と倒れた木があるだけで戦闘の残骸を見つけることができなかった。本物の宇宙服のように完全防護服で全身を覆って長い棒を手に持ち、煙が立ち込めている中で帰還したという宇宙人?の正体とは?

 

話は変わってラクさんの近所で小寺隆という男性が異様な姿で死んでいるのが発見された。ヘルメットで頭部を隠し、マフラーを首に巻いて、ゴムの手袋をして、体にもシーツを纏った全身白色重装備の状態。外傷もなく、持病もなく、現場となった寝室と窓には鍵が掛かっており、窓の隙間までガムテープでふさぐ徹底ぶり。さらに、天井からたくさんのガムテープがぶら下がっていた寝室を前にして驚きを隠せないでいた。地球外生命対策研究会というサークルの会員でもあった彼なりの宇宙人対策のつもりであったのだろう。その後は第一発見者で、彼の婚約者だった柴田明美から最近の様子を窺ったり、部屋内外の調査も続行したが、それ以上手がかりを見つけることはできなかった。

 

自称捜査のプロで江戸っ子の猪神刑事の介入により、ある意味捜査の難易度が上がったUFO事件だが新たな犠牲者が出てしまう。彼の婚約者だった柴田明美が上半身を銀色に染まって倒れており、まさしく宇宙人の仕業だと見せつけるように死んでいたのだ。おろおろする他の者をよそに御手洗は保健所の住民窓口担当の責任者と江ノ電の路線の傍に住んでいる人物にターゲットを絞りこんでいた。そして、とうとうこの事件の核心に迫る時が来た。文句をだらだらと言いながらも目的は同じである猪神刑事と共に御手洗が犯人だと示した羽山輝雄課長宅に突入するのであった。

 

柴田明美の頭部陥没骨折は江ノ電にぶつかったのが原因であった。羽山課長宅にあった彼女のコートに車体の塗料が付着していたことから解釈できるように、被害者本人にも付着していた可能性が高い。こういった証拠品から特定を恐れた羽山課長は、江ノ電の塗料の付着を捜査陣の目から隠すために着衣を回収しようとしたが、顔だけは隠せないでいた。困った彼が銀色のスプレーで江ノ電の塗料を覆い隠す方法で難を逃れようとし、これが顔や上半身が銀色に染まっていた理由であった。江ノ電の運転手も付近の工事の音でぶつかったことに気がつかなかったことも彼に味方していた。

 

さて本題のUFO事件の説明に入った。ラクさんが見たと語る宇宙人戦争。小寺隆が異様な姿で死んでいたのは何故か。また天井から吊るされたガムテープの意味。これらすべては一本の線で繋がっていたのである。

彼はアナフィラキシーショックを起こす可能性があると特異的IGE抗体検査で発見された。医師の警告によってその毒素を徹底的に遠ざける生活を送っていたことが原因で、今回のこの風変わりな事件が引き起こされたのであった。彼が恐れたもの、それは蜂である。最悪なことに元凶であるオオスズメバチの巣が自宅の付近から発見されたことを知った彼は、蜂が黒いものを襲うという習性から白いもので上から下まで全身を隠して生活しており、さらに保健所に蜂の巣の駆除を依頼していた。ところが再三の訴えにも耳を貸さないで、少々お待ちくださいとの対応で先伸ばししていた保健所の怠慢で死んでしまった小寺隆。彼の死を知った羽山課長らが大慌てで対処した保身の工作が宇宙人戦争の正体であった。

すべてを悟った柴田明美が羽山課長に復讐しにいったが、揉み合っているうちに江ノ電接触して死んでしまった。その後の工作が先の述べてとおりである。

 

これがUFO事件の全貌であった。

 

▼傘を折る女

1993年(平成5年)の5月。ラジオ放送でリスナー参加型のコーナーで紹介された奇怪な行動をとる女性の話を御手洗が聞いただけで解決へと導く安楽椅子探偵もの。

 

~とあるリスナーの投稿~

雨の日の夜に、白い半袖のワンピースを着た女性が傘を自動車に轢かせようとしている姿を目撃した。背が高く、スタイルがいい三十代らしき女性で、別に酔っているふうでもなく、足取りはしっかりとしていた。その女性は交差点で、横断歩道の信号機が青に変わるのを待っていた。すると、突然傘を畳んで車道に置いてしまう。当然車は障害物になる傘を避けようとするので状況は変化なし。それでも対向車線の都合上、避けられない車が通過するときにやむを得ずに傘を轢いてしまう。すると彼女は壊れた傘を大事そうに手に持って、濡れたまま帰っていった。

 

さてここからは女性視点のお話しである。

バスジャック事件で犯人の高校生に母親を殺された功徳院雪子は、トイレに行くと言って逃亡した乗客の祖父江宣子をどうしても許すことができなかった。彼女がとった身勝手な行動と嘘により、人質となっていた母親がただ一人犠牲となった。犯人が逮捕された今、怒りの矛先を宣子に向けるのは自然の原理である。

 

宣子が住むマンションを訪ねて不可抗力ながら彼女のことを殺してしまった雪子は、形跡や証拠を全て消し去り、マンションを後にする。弁護士を目指していた彼女は、法律事務所に在籍していた時期があり、事件発覚後に裁判に向けて警察や検察が何をするかを知っていた。そう、ここまでの後始末に抜かりはなかった。

 

御手洗はラジオからの情報だけで祖父江宣子の死に辿りついた。新聞記事で答え合わせをすると彼が語った洞察通りであったが、予想外の要素として彼女のマンションで発見された女性の死体は二体あった。意外性ありのこの事件に興味を持った御手洗は、さっそく捜査本部が置かれている警察署に連絡をして、捜査官から情報を仕入れたことで本腰を入れ始めた。

 

一般人には到底推測がつかないこじれた事件を、たったこれだけの情報からあれだけの事柄を引き出してしまう御手洗潔の卓越した能力を見せつけられた事件であった。

 

感想/まとめ

面白かった。

両編ともアレルギーのお話しでしたね。僕もアレルギーには苦しめられているので、身近なものが事件のテーマになっていると一層読む楽しみが増えるものですね。

 

今回も嫌みな刑事(猪神刑事)が登場しましたね。シリーズにはこういう憎たらしいキャラも必要不可欠ですね。御手洗さんと敵対する刑事の登場をいつの間にか楽しみになりつつある僕であった。