今邑彩さんの「いつもの朝に 下」を読んでみた 感想
今回紹介するのは今邑彩さんの「いつもの朝に 下」です。二転三転する事実に翻弄される兄弟。犯罪者の父親と同じで血は争えないのか?嫉妬、確執、ぶつかり合った先にあるのは切っても切れない家族の絆だった。兄弟小説ここに完結!
いつもの朝に 下
父が残した謎の手紙に従い、福田ヨシのもとを訪ねた優太。渡された一冊の古いノートには父の恐るべき告白が書かれており、三十年前に起きた凄惨な事件が綴られていた。残酷な真実を知り、このままどこかに消えてしまい優太だったが、桐人の言葉を思い出し、自分の居場所に戻った。その後、物置で見つけると写真に映る、明人と優太はそっくりだった。これで、出生の問題は解決かと思いきや、母・沙羅の意外な言葉により、疑惑が再熱する。
この世には良い歯車と悪い歯車がある。良い歯車に接続して、回転すると良い方向へと上昇することができる。逆に運悪く、悪い歯車に接続して、回転すると悪い方向へと下降していく。上巻では兄・桐人が良い歯車で弟・優太が悪い歯車だった。それがアルバムの件を境に立場が逆転してしまう。
さあ、波乱の下巻が始まる!
さすがにこれだけの事実を前にすると、鈍い優太にも兄貴の方が川嶋家の子どもだったのではとぶつけてしまう。そのことで仲たがいしてしまい、仲直りしないまま桐人はサッカー部の合宿へ出かけて行った。しかし、サッカー部の友人が電話をかけてきて、桐人が夏風邪をひいてしまい合宿に参加していないことを知る。
嘘をついてまで行く場所とは?兄貴の立場になって冷静に考えてみると、福田ヨシのことが浮かんできた。すぐに連絡をとってみると、やはり桐人はお邪魔していた。僕が言った話が気になって、会いに行ったのと心配していたが、気にし過ぎだと笑い、お前の話を聞いたらおばあさんに会いたくなっただけだし、優太がひ孫だと勘違いのままだと可哀想だから訂正しにきただけだと答えた。ついでに言うと、おばあさんの記憶違いで川嶋家の子どもは別の知り合いの夫婦に引き取られていったと聞いて二人とも安心するのであった。
だが、福田ヨシの不自然な行動と仏壇の前での拝み。桐人は彼女が咄嗟についた嘘だと見抜いていた。川嶋家の子どもは桐人だった。帰宅して古いノートを燃やし、この世から完全に抹消された。二人の冒険は終わりを迎え、後は記憶だけだが、頭の中を覗き込んで消せるものでもない。兄弟だけの永遠の秘密だよと優太の言葉に信じるしかない。しかし長年、兄弟やってきたのだから弟が桐人の嘘を見抜いていることは分かっていた。秘密を守ってくれるのだろうか?一生付きまとわれる時限爆弾におびえ、発狂しそうになる。すると、寝静まった夜。無意識に優太の部屋へに向かっていた。ユータンを抱いて、熟睡している弟の顔に拾った枕を近づけて、全身に力を込めて押しつけたのだった。
翌日、旅に出ますと置き手紙を残していなくなった桐人を探しに行く決意をする優太。兄貴の声なき悲鳴を感じ取れるのは秘密を共有している弟の僕だけだ。何が何でも見つけ出し、連れ戻す。前に兄貴が僕にしてくれたように、帰る家はここなのだから。
緊迫するラスト。対峙する兄弟。思いきった行動と信じる心で救われる。
二転三転する現実に翻弄されながらも、家族の絆は絶対に切れることはない。
一通の手紙から始まった兄弟物語、これにて完結!
感想/まとめ
面白かった。犯罪者の血筋は遺伝するのかを根本に物語は広がっていく。
殺人犯の子どもは僕なのかと恐怖心と戦った兄弟。二転三転する歓喜と絶望。嫉妬、確執、渦巻く感情の嵐に手汗が握る。
日向家の絆に感動。母・沙羅さんが素晴らしいのは読んでいて伝わってきた。桐人や優太がマザコンになるもの頷けるものだ。優太のことを株で表現する桐人のユニークさ。立派な大人になる優太も素晴らしい。その後が描かれた余韻まで心地よい。あざやかにまとめられた家族小説としても堪能できました。傲慢な兄と怠惰の弟。欠点があるから、人は支えられる。
色々書いたが、おススメできる本です。是非手に取って見てはいかがでしょうか?