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恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を読んでみた 感想

今回紹介するのは恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷です。ピアノを持たない蜜蜂家の少年、元天才少女、サラリーマンなどコンクールにかけるピアニストの物語。直木賞本屋大賞のダブル受賞作品。

 蜜蜂と遠雷

モスクワ、パリ、ミラノ、ニューヨーク、芳ヶ江(日本)の世界五カ国でオーディションが行われていた。パリ担当の審査員三枝子、シモン、スミノフの三人は、これといった逸材が現れなくて退屈していた。そんな時、候補者の『ジン カザマ』の書類が目についた。目立った学歴や経歴はなかったが、三枝子を動揺させたのはユウジ・ファン・ホフマンに五歳から師事の一文だった。今年亡くなった伝説的な音楽家で世界中の人に尊敬されていた人物である。亡くなる前に爆弾をセットしておいたよと言い残していた。ジンの演奏を聴くと、その意味を知ることになる。

ホフマンの推薦状には、彼の音楽は劇薬で体験したら理解できるだろう。中には嫌悪、憎悪、拒絶する者もいるだろう。それが「ギフト」になるのか「災厄」になるのか、我々にかかっていると。

三枝子は、あの演奏はホフマンに対する冒瀆だと怒り、合格には反対した。ホフマンの予言が的中した。それでも最終的に説得されてジンは合格することになった。

弟子を取らないことで有名だったホフマンが惚れこんだ風間塵。蜜蜂農家の息子でもあり、蜜蜂王子と呼ばれて親しまている。仕事上転々とするので、ピアノを持っていない変わり者だ。彼の音楽は賛否両論を巻き起こしている。

 

かつては天才ピアニスト少女だった栄伝亜夜。一三歳の時にサポートしてくれていた母が急死したことで、それまでのようにピアノと向き合うことができなくなり、音楽の世界を離れて普通の高校生として生活していた。ある日、母と音大で同期だったという浜崎が訪ねてきて、亜夜のピアノを聴かせてくれと頼まれる。促されるまま披露すると、その演奏に満足したのか是非うちの大学を受けてくれないかと誘われた。そこは日本で有名の名門私立大学であった。浜崎の言葉に心を動かされて受験して無事に合格。ピアニストとして再出発の舞台である芳ヶ江国際ピアノコンクールの出場する。

 

高島明石、二十八歳。芳ヶ江国際ピアノコンクールの出場者では、最高年齢でありベテランの域に達している。音大まで進んだが、プロの道を選択することはなかった。楽器店で働くサラリーマンであり妻子もいる。今年がラストチャンスだと思い、長年のブランクを埋めるために猛練習に励んで準備してきた。出場の理由として息子に音楽家を目指していた証を残したいためと家族には説明して納得してもらったが、本当は違った。生活者の音楽は、音楽で生計を立てている者より劣っているのか。その疑問を解消するために出場を決めたのだ。

 

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール。才能もあり、華もある。今年のコンクールの優勝候補筆頭だ。マサルは、五歳から七歳まで日本に住んでいた。そこでアーちゃんと呼んでいた女の子に連れられてピアノに触れたのが原点だった。彼には絶対音感もあり、簡単な曲なら連弾できるようにもなった。フランスに戻ってピアノを習い始めると、みるみる頭角を現してその名を知られるようになった。

中盤あたりで、その時の女の子が栄伝亜夜だと判明する。

 

第一次予選が始まった。世界各国から集められた強者による演奏はハイレベルの戦いへと誘っていた。そして、いよいよ初日最終演奏者明石の順番がやってきた。明石の妻・満智子も会場に駆け付けていた。「練習を一日休むと本人に、二日休むと批評家に、三日休むと聴衆に分かる」という有名な言葉があるように、長い間ピアノから離れていた明石が勘を取り戻すことは容易なことではなかった。それを間近で見ていた満智子は祈るように演奏を見守っていた。そんな心配をよそに明石が演奏を始めると聴衆を引き込んだ。演奏後には会場が拍手と歓声を包みこんだ。これまでの努力が認められた瞬間でもあった。かつては音楽家の妻として嫌み、哀れみ、同情さえも受けた。それでもやっぱりわたしは音楽家の妻であり、夫は音楽家であると満智子は噛みしめるのだった。

マサルは、余裕のある演奏で聴衆を魅了した。容姿の華やかさもさる事ながら、大衆性も兼ね備えているスターだ。蜜蜂王子と呼ばれ、注目を浴びている風間塵は、聴衆を戸惑いや混乱、衝撃を与えて圧倒させた。審査員を務めている三枝子も判断に困っていた。そして、帰ってきた亜夜。塵の演奏が子どもの頃の、いやそれ以上の衝撃を亜夜に与えていた。彼のようにピアノを弾きたいと。覚醒した彼女の演奏はファンが待ち望んだ瞬間でもあり、喜んだ。彼女の演奏が、あのアーちゃんだと気が付きマサルと亜夜が再会した。

そして、審査委員長のオリガ・スルツカヤから一次予選通過者の名前が読み上げられた。

明石、マサル、亜夜、塵の名前は順当に呼ばれた。塵だけは、評価が別れてギリギリ合格だった。

 

第二次予選が始まった。宮沢賢治の詩をモチーフにした「春と修羅」の演奏が重要となる。明石、マサル、亜夜、塵。それぞれのイメージが演奏にも反映されていく。

明石は最後の演奏になるかもしれないと、ベストを尽くそうと意気込んでいた。そして演奏前の不思議な情景が彼の演奏を後押しした。一次予選同様の拍手喝采に迎えられて、終えることができた。マサルは、宇宙と余白を表現して演奏した。亜夜は練習中に現れた塵との連弾で自分なりの「春と修羅」を見つけようとしていた。塵はホフマンのことづけであった一緒に音を外に連れ出してくれる人を探しており、それが亜夜かもしれないという。塵の修羅に満ちた演奏を亜夜はすべてを受け止める母なる大地で応えた。その演奏を聴いて誰もが感じたであろう栄伝亜夜の完全復活である。

そして、結果発表。

明石は残念ながらここで脱落した。マサル、亜夜、塵の名前は順当に呼ばれて、次のステージへ進んだ。

 

第三次予選が始まった。

塵の演奏は音の波に飲み込まれて、根こそぎ持っていかれる狂気さえも感じた。一般の範疇をすんなりと超えてしまっている。何かやってくれるのではと、期待してしまう。型破りの彼の演奏は、聴衆には受け入れられていた。

舞台袖で塵の演奏を聴いていた亜夜は、自分は何も知らなかったことに気づかされた。音楽と新に向き合い、覚醒した彼女の演奏は素晴らしいのものであった。昔からファンであった明石も涙ながらに帰還を喜んでいた。

三枝子はホフマンの言葉の意味を探っていた。「ギフト」と「災厄」。型にはまらない塵の演奏が起爆剤となって、他の演奏者たちに大きなる影響を与えることになる。ただ上手く弾くだけの演奏ではなく、己に秘められた新たな才能を開花させていた。私たちが受け取っていたのは間違いなく「ギフト」だ。決して「災厄」ではない。マサル、亜夜、塵の演奏ひとつひとつが「ギフト」なのだと。ここに座っていられることが幸せだと噛みしめていた。

そして、本選へと駒を進めることができる六名が発表された。

 

感想/まとめ

またひとつ凄い作品と出会ってしまった。

 

明石さん派だったので、彼目線で読んでいたのもあった。二次予選敗退との結果は残念ではなく、立派だったと言いたいです。挑戦した彼に勇気をもらえた読者の一人として拍手を送りたいですね。また彼の演奏が聴ける、読めることを待ちたいです。

 

個人的には恩田さんの作品で一番好きとは言えなかったが(では何が好きだと言われると困るので現時点ではどれも好きと答えておく)間違いなく代表作にはなったことでしょう。また、音楽小説としてもトップクラスで面白かった。