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近藤史恵さんの「サヴァイヴ」を読んでみた 感想

今回紹介するのは近藤史恵さんの「サヴァイヴ」です。ロードレース小説「サクリファイス」「エデン」に続く第三弾。サブキャラ達がメインのお話しになりますね。過去と未来が描かれている短編集。

 サヴァイヴ

老ビプネンの腹の中

取材中の白石の元へ電話が入る。以前のチームメイト・マルケスから同じくチームメイトだったフェルナンデスが死んだという訃報が届けられた。遺体の確認に行った警察署で死因はドラッグだと教えられた。

北の地獄と称されるレースに出場することとなった白石。通常のレースのような走りは通用しない。強さと幸運が求められ、完走することも困難な過酷なレースだ。

今年からパート・ピカルディへ移籍してきてエースのミッコと初めてレースで走る。緊張と楽しみの中それでもフェルナンデスの死が思いのほか白石の心に重く圧し掛かっていた。

そんな様子を気に掛けてミッコからフィンランドに伝わる神話を例えとして引き出しレースに勝つことも大事だが生き延びることも一つの手段だと教えられる。

疲労と苦痛を味わいながらも完走した先で白石が見つけた答えとは何か。

 

スピードの果て

車道をロードバイクで走っていた伊達和美はオートバイに目を付けられた。幅寄せしたりわざと遅く走ったりして邪魔をしてくる。

振り切ろうとした矢先、飛び出してきたワゴン車と衝突しそうになり急ブレーキ。事故を回避した安堵の後目線を戻した先でオートバイが激突する瞬間を目撃してしまった。運悪く亡くなってしまいことを聞かされて伊庭の胸に苦いものが残った。

この後の練習やレースで事故の光景がフラッシュバックしてしまい身体が動かなく症状が現れる。

不安を抱えたまま迎えた世界選手権。強豪との戦い、ついていくのが精一杯の中ふいに思いだした。かつてのエース、いつか乗り越える大きな壁。しかしもう二度と会うことはない存在。いなくなったエースの背中を追い越すにはここで勝つしかない。死に物狂いにくらいつきゴールに飛び込んだ。

飛び込んだ先で見つけた答え。いつの間に伊庭は恐怖を克服していた。

 

プロトンの中の孤独

スペインで3年半選手としてやってきた赤城だが結果が残せず人生の分岐点が訪れていた。そんなときタイミング良くオッジから誘われたのを機会に日本に活躍の場を戻した。

今年オッズに加入した石尾豪と赤城のふたり。だがふたりともチームに馴染めずにいた。力はあるが空気を読むことやチームに合わせることに全く関心がない石尾。同期の赤城が目を付けられレース中にチームメイトからのいやがらせにより負傷。ロードレースが嫌になっていた。だが赤城の「ツール・ド・フランスに出たくないか」に驚き、無理と言いながらも意思を汲み取ったのか石尾は「俺のアシストしませんか」と返事を返した。

その後のレースで集団競技ならではの戦い方でエースを勝たせた石尾は、ロードレースの楽しみ方をひとつ覚えたのだった。

 

レミング

前エースが去り石尾がオッズの単独エースとなったがチームには微妙な空気が漂っていた。石尾が無関心すぎたためだ。この場合の無関心はチームにとってマイナス。自分を犠牲にして走るアシストはエースからの評価が欲しいのだ。石尾の態度に赤城はチームメイトから相談を受けるようになっていた。

その後のレースで不可解なアクシデントが石尾を襲う。事情を知った石尾はエースの座を譲り、アシスト徹することになる。

何かが変わりつつある石尾と赤城の姿がここに描かれている。

 

ゴールよりもっと遠く

引退して一時は離れたロードレースの世界に指導者として帰ってきた赤城、そして回想へ。

引退へのタイムリミットが近づいた35歳になった赤城。いつの間にかチーム最年長になっており相談役の立場に立たされていた。揉め事の多くは石尾絡みで今年チームに加入した伊庭ともトラブルを起こしていた。

そんなとき石尾が他チームのスカウトと接触している現場を目撃したとチームメイトに聞かされた赤城は心中穏やかでいられなかった。

去年石尾が優勝したレースに書類不備で今年は出場が見送られた。同会場でレースの前々日に一緒に走ろうと石尾に誘われる。向かう車の中で思い切ってスカウトの件を聞いてみると八百長の申し出だった。書類不備も何かしら関わっているはずだ。

石尾は一人で抗議の戦いに挑んでいたのだ。

帰り道引退のことを口にしたが、「ツール・ド・フランスに行かないのか」石尾はまじめに返事を返した。

冗談だった言葉のはずが赤城の心は乱された。

 

トウラーダ

今回のチームがあるポルトガル(チーム・サボネト・カクト)の料理は日本人であるチカに馴染んでいた。ホームステイ先の家族と闘牛を見に行ったが盛り上がりを見せる会場とは裏腹にチカの心境は沈んでいた。結果的に高熱を出して寝込んでしまった。

借りている部屋の元主であるルイスはチームメイト。ドーピング疑惑で出場停止処分を受けていたが、停止期間が終わりサボネト・カクトと契約したのだ。

今年のツール・ド・フランスの舞台を試走した帰り、ドーピング検査でルイスから陽性反応が出たと知らされる。

ルイスはチームを解雇され、チカも荷物をまとめて家を出る準備を始めた。

 

感想/まとめ

ロードレース小説シリーズ第三弾。短編集でしたが今作も楽しませてもらいました。

前作を読んで先を知っている読者の私たちに対して補完してくれる小説でもありサクリファイスで登場した彼らの印象も随分変化しましたね。

短編集がいい調味料となり次回がますます楽しみになりました。

 

 

 

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